それにしても・・・。
「この辺りは、何てわびしい所なんだ」
行けども、行けども、石が、ごろごろ、しているばかり。見わたしても、草木一本、ありません。
「それに、昼間だというのに、いやに暗いなあ」
と、その時、まっすぐにのびる道のずっと先の先、まっ平らな地平線の上に、ぽちんと、黒い人影が現れました。
それを見たとたん、セムは、ぞっとしました。
「いやなものが来ちまったぞ」
豆つぶみたいだった人影は、ずんずん、近づいて来て、あっという間に、黒ずきんの老婆(ろうば)になりました。
「こいつは魔女にちがいない」
セムは、戦場で、何度か、魔女を見かけていました。
魔女たちは、死人の間を歩き回って、ひとり、また、ひとりと生き返らせて、ぞろぞろ、連れて行くのです。
どこへかって?
「魔女と取引した者は、生きている間はいい暮らしをするが、死んだら、地獄(じごく)につれて行かれて、魔王の館で働かされるんだ。かなえてもらった願いの分だけ、さんざん、悪事の手先にこきつかわれて、年季(ねんき)が明けるまで、天国へは行けないそうだぞ」
兵隊たちの間で、こそこそと、語られていたうわさです。
「関わりになっちゃだめだ」
セムは、強く、自分に言い聞かせ、さっさと、すれちがってしまおうとしました。
ところが、老婆とすれちがったその時に、足元で、チリンと、音がしました。見ると、それは美しい金の指輪でした。
セムは、すっかり、心をうばわれてしまい、気が付くと、ひろいあげていました。
「し、しまった!」