なぜ、あいさつするの?
それからの3日間は目まぐるしいものでした。ソラはデパートでピンクのワンピースと白いサンダルを買ってもらいました。お兄ちゃんは真っ白なスーツを買ってもらいました。もちろん選ぶのはママです。ママもちゃっかりむらさき色のコートを買っていました。
家の中に積み上げられたダンボールが次々と運び出されました。ご近所さんが代わる代わるおせん別を持ってきました。
出発の日、空港にパパのお友だちや部下の人たちがたくさん集まりました。おじさんたちは代わる代わるソラの近くによってきて、こう言いました。
「子どもはすぐなれるから大じょうぶだよ」
「3か月もすればペラペラになるよ」
「子どもは耳がいいからね」
「そうそう。大人は頭で考えちゃうけど、子どもは耳で覚えるから早いんだよね」
パパが言っていたのと同じです。子どもは3か月でペラペラになるみたいです。
飛行機の中ではきれいなスチュワーデスさんが、やさしくしてくれました。
「はい、オレンジジュースをどうぞ」
「はい、チョコレートをどうぞ」
「寒くないですか? 毛布、かけますね」
スチュワーデスさんはみんな、かみの毛を一つにキュッと結んでいました。見るもの、聞くものすべてが、ソラには初めてでした。おかげでのうミソはバクハツしそうでした。
「夜明けがすごかったね! 七色に空が変化していくなんて初めてみた!」
とお兄ちゃんは興ふんして言いましたが、ソラは全く覚えていません。
「ソラ、おまえ、まさかママのアイスクリーム食べたことも覚えてないの?」
「ボク、食べてないもん」
ソラののうミソの記おくの箱は満パイになってしまったようです。ただ、パパのいびきがうるさかったことだけはしっかり覚えていました。