それは急にやってきました。
「あれ、おかしいな。胸が苦しいぞ」
それもそのはずです。
ハトは、めったに、そんなに高くは飛ばないのですから。高いところのうすい、冷たい空気には慣れていなかったのです。
しかも、前に傷めたつばさも、ずきずきし始めました。
トンビやカラスに追われていたときに、夢中で働かせ過ぎてしまったのです。
「イテテテ・・・」
ちょっと羽ばたいては、つばさを休ませます。
そんな時、トンビだったら、羽をハングライダーのようにふくらませて、その場に止まっていたり、先へすべって行ったりすることができました。
風をはらんで、もっと高く上がることすら、できたのです。
でも、短い、とがったつばさのハトは、羽ばたきを止めれば、だんだんと落ちて行くしかありません。
幸い、海の方角から山に向かって、いつも、上向きの風が吹いていました。
それで、羽ばたきを止めている間も、少しは、高度を保つことができました。
いつまで持つでしょう。
あんのじょう、さっきまで見えていた蔵王は目の前の山にかくれ、こんもりしていた森も、今では、こずえの一本一本が見分けられるまでになっていました。