WEB版「BOOK& ~川越からの物語」展(2/3)

気がつくと、彼女はテレビでも人気の若手女優になっていた。それなのに、変装までして、奏多の店に通い続けてくれた。
奏多と女優が恋仲になるのに、時間はかからなかった。
それを知った瑠衣は、静かに身を引いた。騒ぎもせず、怒りもせず。

「あいつは、そういう女なんだ。もしかしたら、はなから、オレのことなんか、どうでもよかったのかもしれないな」
瑠衣を忘れ、仕事に邁進する奏多は、たいやき屋をレストランへと拡大した。
チェーン店にして、ネットショップも立ち上げた。
短期間で欲張り過ぎたのだろう、奏多の意気込みとは反比例、経営は難しくなるばかり。口コミ人気も長くは続かなかった。
女優はさっさとスポンサーを鞍替え。
よくある話だろうが、すっからかんの現実だけが目の前に残った。

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ