WEB版「BOOK& ~川越からの物語」展(2/3)

「また、たいやき屋を始めようかなぁ」
一人だって、なんとか生きていけるさ、と古いたいやき作りの道具を、押し入れから出してくると、いつかの幸福な日に、瑠衣からもらった本物の鯛おみくじが、一緒にしまってあった。

「あれ? 二個ある・・・」
赤とピンクの鯛がいた。ピンクのおみくじは「凶」で、「なにが大切なのか見極めて進め」というようなことが書いてあった。
瑠衣はきっと、先に自分用の「大吉」を引いたんだろう。
奏多のために引いた鯛が、あんまりな内容だったので、自分のと取り換えてくれたんだ。

「なにが大切かーーー」
今頃わかったって、遅いよな、神様。奏多は泣き笑いしながら、新しい、マジメな人生のスタートを自分に誓った。

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ