ピイの飛んだ空(1/8)

文・七ツ樹七香   絵・久遠あかり

「うわ、クサッ! こいつカメムシだ! ゴメン、ピイ」
顔をしかめたくなるにおいにかぎ覚えがあった。はき出されてじっとしている茶色い虫に顔を寄せ鼻を鳴らすと、まちがいなくカメムシのにおいがする。九死に一生を得た虫は自分のにおいに自信があるのかあわてるそぶりもない。

おえっ、と軽くえづいてから、秋斗(あきと)は急いでまどを開けてあみ戸にする。
「・・・最悪だ」
こんなものを口に入れて、もしかしてとんでもない毒だったりしないんだろうか。
不安だったが、しばらくして落ち着いたピイは「今度はおいしいものをください」と言わんばかりに秋斗を見上げて口を開けた。

空前絶後のパニックとはうらはらに、どうやらきずは浅かったようだ。
秋斗は少しホッとして、けれどわずかな異常(いじょう)も見のがすまいと、もう一匹の獲物(えもの)の小さなクモを、今度はケージの中に慎重(しんちょう)に放りこんだ。
保護者秋斗の心配をよそにピイは足をもつれさせる勢いで飛びついて、お気に入りのエサを満足げに飲みほした。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。

久遠あかり について

(くどうあかり) 漫画家。主に児童向け、動物のお話を執筆。ハリネズミや犬を飼い自然と動物好きに。現在は保護猫と暮らしている。また、別名義(光晴ねね)で少女漫画やロマンスジャンルなどで活動中。 pixiv fanbox 光晴ねね https://nene-mitsuharu.fanbox.cc/