「うわ、クサッ! こいつカメムシだ! ゴメン、ピイ」
顔をしかめたくなるにおいにかぎ覚えがあった。はき出されてじっとしている茶色い虫に顔を寄せ鼻を鳴らすと、まちがいなくカメムシのにおいがする。九死に一生を得た虫は自分のにおいに自信があるのかあわてるそぶりもない。
おえっ、と軽くえづいてから、秋斗(あきと)は急いでまどを開けてあみ戸にする。
「・・・最悪だ」
こんなものを口に入れて、もしかしてとんでもない毒だったりしないんだろうか。
不安だったが、しばらくして落ち着いたピイは「今度はおいしいものをください」と言わんばかりに秋斗を見上げて口を開けた。
空前絶後のパニックとはうらはらに、どうやらきずは浅かったようだ。
秋斗は少しホッとして、けれどわずかな異常(いじょう)も見のがすまいと、もう一匹の獲物(えもの)の小さなクモを、今度はケージの中に慎重(しんちょう)に放りこんだ。
保護者秋斗の心配をよそにピイは足をもつれさせる勢いで飛びついて、お気に入りのエサを満足げに飲みほした。