「こいつだ、あのクサいの」
こん虫図鑑で調べるとマルカメムシという、カメムシの仲間だとわかった。
「毒だったんじゃないかな・・・」
ダイニングテーブルでお母さんに問いかければ、むずかしい顔でこう返事がきた。
「多少は毒でしょうよ。あのにおいよ? カメムシだって食べられないために、ああいうクサいの出すんだし。味は、まあ最悪でしょうね。大丈夫(だいじょうぶ)なの? ピイは」
「うーん・・・、今のところ大丈夫そうなんだけど」
「様子、見ておきなさいよ」
「うん」
「ハハッ、お前いい教育したじゃないか。カメムシは食えないって、わかっとかなきゃな」
ソファの上で能天気な返事をしたお父さんを、秋斗(あきと)はちょっとにらんだ。
どんなに心配かなんて、きっとお父さんはわかってないんだ。
あの転げよう、とんでもなくひどい味だったにちがいないのに。
その夜、ピイの様子を思い出しては不安でねむれなかった秋斗は、よく朝けろっとしてエサをねだるピイに心底ホッとした。