『あの子』
二度目の同窓会をそろそろ開きたいんだけど、律子さん、ご都合は? という電話がかかってきた。知らない女性の声に最初は詐欺電話かと疑ったが、よくよく話してみると、久しぶりに聞くクラスメートの声だった。同窓会は20年ぶりだし、次回はもうじきやって来る還暦のお祝いを兼ねて、盛大にやろうという趣旨らしい。
「ねぇ、律子さんは新聞委員だったじゃない?」
と、電話の主の幹事が言う。小学校時代に何の委員だったかなんて、
もう忘れている。そもそも小学校の思い出自体が霞がかってきていた。
「そうだったかしら?」
「そうよ。あの頃に配られた学級新聞、私、物持ちいいから、今もとってあるのよ」
「学級新聞?」
「大きな壁新聞じゃなくて、一人一人に配られたプリントよ。ガリ版刷りって言ったかしら? 手書きで、味があって・・・」
「ああ、そういえば」
小学高学年の頃、新聞委員に手をあげ、何人かのクラスメートと生意気にも大人ぶった編集会議をしたっけ。放課後に誰かの家に集まっては、遊び半分で掲載記事を決めていた。楽しかった記憶がひとつ蘇ると、次々にあの時代のことが思い出される。
「でね、律子さん。卒業直前の号外には確か、将来へ向けたコメントを、クラス全員が書いたのよ。覚えてる?」
「そうだったかしら?」
「そうよ。私、鉄筆なんか、あの時、初めて持ったわ。手が黒く汚れるのが嫌で、新聞委員さんは大変だなぁって思ったもの」
「ガリ版なんて、今の子たちは誰も知らないでしょうね。私たちも年とったものだわ」