あの子 ーーBOOK展2023より

文と絵・田村理江

『あの子』

二度目の同窓会をそろそろ開きたいんだけど、律子さん、ご都合は? という電話がかかってきた。知らない女性の声に最初は詐欺電話かと疑ったが、よくよく話してみると、久しぶりに聞くクラスメートの声だった。同窓会は20年ぶりだし、次回はもうじきやって来る還暦のお祝いを兼ねて、盛大にやろうという趣旨らしい。

「ねぇ、律子さんは新聞委員だったじゃない?」
と、電話の主の幹事が言う。小学校時代に何の委員だったかなんて、
もう忘れている。そもそも小学校の思い出自体が霞がかってきていた。

「そうだったかしら?」
「そうよ。あの頃に配られた学級新聞、私、物持ちいいから、今もとってあるのよ」
「学級新聞?」
「大きな壁新聞じゃなくて、一人一人に配られたプリントよ。ガリ版刷りって言ったかしら? 手書きで、味があって・・・」
「ああ、そういえば」

小学高学年の頃、新聞委員に手をあげ、何人かのクラスメートと生意気にも大人ぶった編集会議をしたっけ。放課後に誰かの家に集まっては、遊び半分で掲載記事を決めていた。楽しかった記憶がひとつ蘇ると、次々にあの時代のことが思い出される。

「でね、律子さん。卒業直前の号外には確か、将来へ向けたコメントを、クラス全員が書いたのよ。覚えてる?」
「そうだったかしら?」
「そうよ。私、鉄筆なんか、あの時、初めて持ったわ。手が黒く汚れるのが嫌で、新聞委員さんは大変だなぁって思ったもの」
「ガリ版なんて、今の子たちは誰も知らないでしょうね。私たちも年とったものだわ」

田村理江 について

(たむら りえ)東京都生まれ 成蹊大学文学部日本文学科卒業。日本児童文学者協会第15期文学学校を終了。 第6回福島正実記念SF童話賞を受賞して、『ガールフレンドは宇宙魔女』(岩崎書店)を出版。 児童書の作品に『リトル・ダンサー』(国土社)、『夜の学校』(文研出版)、『魔の森はすぐそこに・・・』(偕成社)など。絵本の作品に『ふなのりたんていラッタさん』(フレーベル館)、『ハンカチのぼうけん』(すずき出版)など。 HP:田村理江のページ