いすから去った王子(7/7)

文・伊藤由美   絵・伊藤耀

「私はここからはるか北にある王国の王子でした」
「王子だった」と言ったのは、父親の王様が、先ごろ、亡くなり、今では、この若者こそが北の国の王だったからです。

「父は、しばらく、病でふせっておりました。
父が病になったのは、弟の王子が亡くなってからです。
父は、弟を、それはもう、かわいがっていたので、死んだとの知らせを受けた時には、世界が終わってしまったかのようななげきようでした」
弟の王子は、だれもが好きにならずにはいられないような、心の真っ直ぐな少年だったと、北の王は言いました。

そして、
「とりわけ白鳥を愛し、いつも、白鳥の羽をぼうしにさしていました」
と、付け足しました。
みんな、はっとしました。
白鳥の羽をぼうしにさした王子とは、いつか、いすに70日間、すわり続けて、死んでしまった若者のことだと、すぐに気づいたからです。

北の王は続けます。
「弟の死の様子を、家来たちから聞いた私は、とても腹が立ちました。
でも、同時に、興味もひかれました。それほどまでに、弟があこがれた王女とは、どんな女なのだろうと。
それで、自分の目で確かめようと、1年前、このお城へやって来たのです」

復讐(ふくしゅう)のしるし、ワタリガラスの羽をぼうしにさして、お城にやってきた王子は、王女の美しさに、すっかり、心をうばわれました。
なるほど、弟の王子が、命がけになったのも、無理はないと思いました。
そして、自分自身も、王女と結婚することを、心から願うようになったのです。

伊藤由美 について

宮城県石巻市生まれ。福井市在住。 ブログ「絵とおはなしのくに」を運営するほか、絵本・童話の創作Online「新作の嵐」に作品多数掲載。HP:絵とおはなしのくに

伊藤 耀 について

(いとう ひかる)福井県福井市生まれ。福井市在住。10代からうさぎのうさとその仲間たちを中心に絵画・イラストを描き始める。2019年からアールブリュット展福井に複数回入賞。2023年には福井県医療生協組合員ルームだんだん、アオッサ展望ホールその他で個展開催するほか、県内アールブリュット作家展に出品するなど、活動の幅を広げている。現代作家岩本宇司・朋子両氏(創作工房伽藍)に師事。HP:絵とおはなしのくに