5 黒岩さん
黒岩さんの作った鍋は、最高だった。
エアコンの効いた部屋で、あつあつの鍋をつつきながら、黒岩さんに自分のことを、ちょっと話した。
相づちを打ちながら耳を傾けてくれる黒岩さんとは対照的に、猿神さんはただひたすら食べているだけだ。
その上、黒岩さんの車のアイスボックスからかっさらってきたという飲料水、いや、ビールをがぶがぶ飲みまくり、倒れるように眠りについた。
夏だといっても、こんなところで寝ていたら、風邪をひいてしまう。
「猿神さん、猿神さん」
起こそうと、伸ばしかけた手を、
「いけない! それだけは」
黒岩さんに、止められた。
「先輩は、一旦寝ると、起きないんだ。そして実は、寝起きが悪い。・・・昔、合宿していた時に無理に起こした奴が・・・、」
黒岩さんは、遠い目を宙にただよわせ、
「・・・ああ、思い出すだけで、身震いがする」
飛んできたゴキブリをはらい落すような勢いで、頭をふった。
「ふふっ」
そして、思い出し笑い。
「なんですか?」
「部活、少林寺拳法の部活仲間の間では、こうささやかれてた。触らぬ猿神に祟りなし!」
「なるほど! 猿神さんって、強引で、人を煙に巻いたり、わけのわからない行動をとるだけじゃなく、危険な人なんですね」
「そういうことだ。でも、まあ、先輩は、危険で、デリカシーがなくて、バカなんだが、いいところも、ないわけではなくて・・・」
黒岩さんは宙をにらみ、懸命に考えている。
「・・・先輩は、情に厚いかな」
「情に、厚いところとか?」
重なった声がおかしくて、笑い転げた。
「幸太くんは、笑い上戸なんだな」
「えーっ、そんなこと言われたの、はじめてですっ! 泣き虫って、よく言われますがっ!」
どこかで、時計が、ボーンボーンと鳴った。
「もう、2時か」黒岩さんの声と、
「丑三つですね」重なるぼくの声。
微妙なズレがおかしくて、また笑う。