早朝に家を出て、相棒と一緒に山越谷越え、ゾンビになって踊りまくった挙句の満腹状態で、横にもならず、黒岩さんと話し続けること数時間。
もはや、疲れているのか、眠いのか、わからない。
頭が、ぼーっとしてる。
そして、やたらと、楽しい気分。
頭の中で、サンバのリズムが、響きだす。
「踊っていいれすか? 黒岩さん」
「いいけど、どうした? なんだか変じゃないか?」
「ぼくは、変じゃないですよ。楽しいだけで」
「そのハイテンション・・・、まさか、酒は飲んでないよね?」
「はい! ぼく、17年生きてますけど、お酒は飲んだことないですっ!」
「でも、顔に赤みがさしているし・・・。あっ!」
「えっ?」
もしかして、と黒岩さんが、茶色い食べ物を箸でつまむ。
「これ、食べたのか?」
「はい! でも、ちょっと苦手な味でしたから、一切れだけですっ!」
と、答えると、
「原因は、たぶん、これだ。奈良漬で酔っぱらう人間がいるという話は聞いたことがあるが・・・」
黒岩さんは、あーあと頭を抱えた。
「ぼくは28年、生きているが、奈良漬一切れで、マタタビに酔った猫みたいに、ハイテンションになってる人間は、初めて見たよ」
「えーーーっ! マタタビに酔った猫って、黒岩さんも見たことあるんですかーーー? ぼくも、見たこと、ありますー!」
「見たこともあるし、マタタビを食べ過ぎた猫の介抱をしたこともある」
「そうなんですか! 聞かせてください、その話。あー、なんだか楽しくなってきました!」
「ぼくは失恋したわけだから、楽しくはないが・・・」
「ああ、そうでした! ごめんなさい」
「いやいや、気にしなくていいから。ぼくの失恋は、年中行事みたいなものだから」
「夏祭りの花火の夜に、ですか?」
「そう言われれば・・・」
「気づいて、なかったんですか?」
「まったく・・・」
「猿神さんは、黒岩さんの行動、把握してました」
「だから、先輩には、かなわない。危険でデリカシーのないバカなんだが、」
「情に厚い!」と、ハモッてしまって、笑いあった。