エルとくるみとソラ(3/7)

文・七ツ樹七香  

「ソラはボール遊びが好きなんでしょう?」
「そう。好きな人にあのボール持っていって『投げて!』っておねだりするんだって。ソラはミックス犬だけど、やっぱりレトリーバーの血も強くうけついでるんだろうねえ」
「ソラは水の中とかも、好きかもね。昔は、レトリーバーって、りょうに行ったときに水鳥の回収をしてたって本に書いてあったもん」
「すごい。やっぱり、くるみはくわしいね」
お母さんは感心してパチパチと手をたたいた。

くるみが発した「ソラ」という自分の名前を聞きつけると、ソラはぷるっと耳をふるわせて起き上がった。そして、ダイニングテーブルでおやつを食べているくるみの足元にやってきて、なにか言いたそうにしっぽをふる。

ソラは、この家に来た時からくるみにとてもきょうみがあるようで、どうにかコミュニケーションを取ろうとしていた。しかし、残念ながら失敗が続いている。
「くるみ、少し遊んであげたら?」
ムシされて、ちょっとがっかりしかかっているソラが気のどくで、お母さんが声をかけるとくるみはきっぱりと言った。

「ううん、しないよ」
「くるみ・・・。でも」
「好きになったら、悲しいでしょ」
くるみはそれだけ言うと食器をかたづけて、二階の自分の部屋にもどっていった。
ソラはつまらなそうに一度だけスンと鼻を鳴らし、またクッションにもどってゴロンと横になった。

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。