「なずした、五平さん!?」
「なずしたも何もねえ!」
五平はその場でこしをぬかし、はあはあ、息を切らして言いました。
「おらたちが山道ば登って行くと、林の中から、身の毛もよだつオニが現れて、あっという間に、2匹を食っちまったのしゃ!おら、あしたらおっかねえ目したの、初めてだ! ああ、太郎、次郎! おめらを助けてやれねくて、すまねえ!」
ひげ面の五平が、子供のように、おんおん、泣くのですから、村人たちは、もう、居ても立ってもいられません。
すぐに、庄兵衛の家で寄り合いました。
「なじょすべえ・・・?」
「なじょすべなあ・・・?」
みな、うで組して、考えます。
「こりゃあ、もう、お殿様にたのむしか、あるめえ」
「んだ、んだ! どうぞ、名主様、お城さ行って、お殿様にお願えしてけさいん!」
村人たちは庄兵衛に頭を下げました。
「しかたねな。おっか、おらの裃(かみしも)、用意しとがいん」
庄兵衛はため息をつきました。
次の朝、庄兵衛は、裃を着て、お城のお殿様に会いに行きました。
庭先に土下座して、庄兵衛は、上座しきのお殿様に申し上げます。
「おらほの村は、山のオニのため、たいそう、なんぎしてござりす。今日までに、村のわらしこ、6たりがさわられてござりす。田畑の肥しにするかれっ葉、集めることもなんねえし、たな田や段々畑も、放ぽったまま。焼き畑して、かぶっこ、作ることも出来ず、このままでは、お城にお納めするお年貢にもさわりが出んでねべかと・・・」
「なに!」
年貢にさわりが出ると聞いて、お殿様は目をむきました。
「それは一大事! じゃが、心配はいらぬぞ。すぐに、余の家来から、手練れを送ろうからに」
「へへへえ!」
庄兵衛は、思い切り、地面に額をすりつけました。