「秋斗、ドアしめなさい。あ、こら!」
秋斗は外に飛び出し、後ろ手にドアをとじる。お母さんに返事はしなかった。
ピイの飛んで行った方向へ。
秋斗の家のうらは、あまり大きくはないがクリ林だった。
林は人の土地だ。勝手に入ってはいけないのはわかっていた。けれど秋斗はいつものお母さんのお小言のしばりを、この時ばかりはかみちぎった。
「ピイ! ピイ! 帰ってこい」
背中がゾッとした。頭がキリキリといたんだ。取り返しがつかないことがわかっていた。
よびかけて手に乗ったことなんて一度もない、ただ声を返すだけだったピイ。
今は八月、夏真っさかりだ。クリの木は夕焼けで黒く見えるほどに葉がおおいしげっていて、小鳥が枝にとまっているのだって見えはしない。
「ピイ・・・お前、まだダメだよ。死んじゃうよ。帰ってこいよ。ピイ! ピイ!」
まだよべば聞こえるんじゃないか。そう思った秋斗は大声でさけんだ。
(本作品は「第30回日本動物児童文学賞」優秀賞受賞作を一部平易に改稿したものです)