ピイの飛んだ空(7/8)

文・七ツ樹七香  

「秋斗、ドアしめなさい。あ、こら!」
秋斗は外に飛び出し、後ろ手にドアをとじる。お母さんに返事はしなかった。
ピイの飛んで行った方向へ。
秋斗の家のうらは、あまり大きくはないがクリ林だった。
林は人の土地だ。勝手に入ってはいけないのはわかっていた。けれど秋斗はいつものお母さんのお小言のしばりを、この時ばかりはかみちぎった。

「ピイ! ピイ! 帰ってこい」
背中がゾッとした。頭がキリキリといたんだ。取り返しがつかないことがわかっていた。
よびかけて手に乗ったことなんて一度もない、ただ声を返すだけだったピイ。
今は八月、夏真っさかりだ。クリの木は夕焼けで黒く見えるほどに葉がおおいしげっていて、小鳥が枝にとまっているのだって見えはしない。

「ピイ・・・お前、まだダメだよ。死んじゃうよ。帰ってこいよ。ピイ! ピイ!」
まだよべば聞こえるんじゃないか。そう思った秋斗は大声でさけんだ。

(本作品は「第30回日本動物児童文学賞」優秀賞受賞作を一部平易に改稿したものです)

七ツ樹七香 について

(ななつきななか)熊本県出身。「ピイのとんだ空」で第30回日本動物児童文学賞優秀賞。 「ラスト・オテモヤン」で第41回熊本県民文芸賞小説部門一席を受賞。熊本日日新聞に全10回連載され好評を博す。本作は朗読CD化、熊本県内数カ所の図書館で視聴可能。 ほか、第1回西の正倉院みさと文学賞 佳作、集英社WEBマガジンコバルト がんばるorがんばらない女性小説賞大賞、第16回深大寺恋物語 調布市長賞など。 共著に『謎解きホームルーム2』『恐怖文庫』『感動文庫』(いずれも新星出版社)動物が好き。犬と小鳥と暮らしている。