その日から、王子は、アルセイダに気に入られるために、いっしょうけんめい、いい人間のふりをしました。
みなに好かれていた兄弟たちのことを思い出しては、それをまねたのです。
兄の王子のように、品よく、堂々と、かしこそうに話しました。
弟の王子のように、あいそうよくふるまい、時にはキラキラと目を見開いて、白い歯を見せ、からからと少年のように笑ったりもしました。
まったくうまくやったので、アルセイダは、たちまち、王子を好きになりました。
(さて、そろそろしおどきかな)
そう思った王子は、ある朝、そそくさと旅仕度をし始めました。
「あなたのご親切にあまえて、思いがけず長居をしてしまったようだ。いつまでもここにいては、またいつか兄弟たちの暗殺者がやってきて、あなたにどんなめいわくがかかるかもしれない。なごりはつきないが、私はきょう旅立とうと思う」
王子の言葉に、アルセイダは、すっかりうちのめされてしまいました。
「ああ、どうか、そんなことをおっしゃらないで。できればあなたにずっとここにとどまっていただきたい」
アルセイダは、王子の手を取って、家の一番奥の部屋に案内しました。
そこには、香りのよい草花をしきつめたアルセイダのベッドがありました。そして、そのまくらもとに子供の頭ほどもある水晶玉が、ふしぎな光をたたえていました。
アルセイダは、その水晶玉を手に取り、王子に言いました。
「森の魔女だけに伝わるこの水晶玉にかけてお願いします。どうか、私の夫になってください」
王子は、にんまりうなずきました。