「黒岩、ラブちゃんと一緒じゃないのか?」
「先輩、お願いですから、僕の車にその呼び方は止めてください」
と懇願しつつ、
「RAV4はそこのコンビニの駐車場に止めてきました。ここの前の道は、雪で一車線しか空いてないですからね」
「黒岩、家の鍵、ぶっ壊したんじゃないだろうな? まだ、ワシの講義、全部聴いてないだろうが」
「壊してないですって。ちゃんと先輩のレクチャー通り、チャカチャカと開けましたから」
「黒岩、おまえ、履物はどうした。玄関になかったぞ」
「コンビニから歩いて来るうちに、長靴に雪が入って、中がびしょびしょになったので、早く乾くよう、ガスコンロで中をあぶって、ほら、そこに」
猿神さんが立て続けに発する質問に、黒岩さんが、律儀に答えていく。
玄関の鍵が開いていたのも、靴がないのも、ぜんぜん謎ではなかった、ってことだ。
なるほど、と聞いているうちに、
「黒岩、おまえ、栗ぜんざいと白玉ぜんざい、どっちが好きだ?」
猿神さんの発する質問は、どんどん的外れなものになってきた。
中園さんの件に、ふれさせないようにしていることは、火を見るよりも明らかだ。