言葉はなくても通い合う祖母と僕の思い出

おばあちゃんのにわ

ジョーダン・スコット 文
シドニー・スミス 絵
原田 勝 訳

偕成社
2023年7月刊

◆大事な食べ物をこぼさずに食べなさい

今回ご紹介する絵本は、カナダの詩人ジョーダン・スコットが、祖母と過ごした子ども時代を描いた作品です。
お話は、幼いジョーダン・スコット(以下ぼく)が父の運転する車で祖母の家へ預けられる場面から始まります。

ぼくのおばあちゃんは、元はニワトリ小屋だった家に一人で住んでいました。第二次世界大戦後、ポーランドからカナダへ移民としてやってきたため英語があまり上手に話せません。そこで、ぼくとは身ぶりや手ぶり、表情を通しておばあちゃんと意思疎通をすることが日常になっていました。

おばあちゃんはぼくが学校へ行く前に必ず同じ朝食を作ってくれます。それは、大きなお椀にバターのたっぷり入ったオートミール。ピクルス、キャベツ、庭で採れたビーツが添えられたもの。
ぼくがオートミールをこぼすとおばあちゃんはさっと拾い上げ、それにキスをしてお椀に戻し、ぼくのほっぺたを軽くつまむのでした。まるで、「大事な食べ物をこぼさずに食べなさい」と言っているかのように。

また雨の日、おばあちゃんはぼくを学校へ送っていく道の途中、地面の上で行き場を失ったミミズたちを拾い集めます。そして、それを庭に持ち帰り、野菜や果樹の横にまいて土をかぶせておくのです。
それをそばで見ていたぼくは「なぜそんなことをするの?」と尋ねると、おばあちゃんは雨でぬらした指でぼくの手のひらのすじを1本ずつなぞります。ミミズが土の中にたくさん住んでいると、水や空気がたくさん入って養分が行き渡り、野菜や果樹が良く育つという昔ながらの知恵を教えていたのでした。(次ページに続く

えもり なな について

江森 奈々(えもり なな)1985年神奈川県生まれ。千葉県在住。幼少期より母から良質な絵本を与えられて育つ。幼い頃から絵を描くことが得意で、小学生の頃は漫画を描く。中学生になると美術部に所属し油絵を始める。灰谷健次郎の「兎の目」に感銘を受け、10代は日本や世界の児童文学を読みふける。現在、保育士をしながら絵本や童話、紙芝居の創作、読み聞かせを行っている。画家・イラストレーター、モデルとしても活躍中。絵本は1500冊以上読破。2023年be京都にて初のプチ個展を開催。パレットクラブスクール19期絵本コース卒業。トムズボックス2019冬季ワークショップ修了。 『絵本作家になるには、絵が描けないと無理ですか』(CATパブリッシング)の挿絵を一部担当。 ●YouTube:【なないろ本屋/7's BOOKSHELF】 ●Instagram:【nana_museum】