言葉はなくても通い合う祖母と僕の思い出

◆見えない心の通い合い

そうやって言葉に頼らない二人のコミュニケーションは続いていきます。
やがてぼくの家族とおばあちゃんが同居するようになると、今度はぼくがおばあちゃんの部屋までオートミールを運ぶのが毎朝の日課になります。

ある朝、窓の外を見て雨が降っていることを知ったぼくは雨の中に飛び出します。あることを伝えるために。それを窓から眺める祖母の表情には、孫に対する慈しみと何とも言えない満ち足りた笑顔が溢れていました。

私は、このラストの一連のシーンが大好きです。一切の文字がなく無音の映画を見ているかのようで、そこに二人の見えない心の通い合いが伝わってきて何とも美しく思えたからです。思わず感動し涙しそうにもなりました。

ジョーダン・スコットの類まれなる繊細な感受性と、シドニー・スミスによる情感を溢れる絵の魅力によって、まるでその場にいるかのような臨場感さえも感じました。
詩人という言葉を扱う仕事をしながらも、言葉に頼らない、言葉を超えたものを熟知しているジョーダン・スコットならではの描き方であるとも感じました。
たとえるなら、文章と文章の間に込められた字間にある、作者の思いにも似た表現が、この絵本の中においては文字のない絵だけの場面に同じように込められているように感じられました。
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えもり なな について

江森 奈々(えもり なな)1985年神奈川県生まれ。千葉県在住。幼少期より母から良質な絵本を与えられて育つ。幼い頃から絵を描くことが得意で、小学生の頃は漫画を描く。中学生になると美術部に所属し油絵を始める。灰谷健次郎の「兎の目」に感銘を受け、10代は日本や世界の児童文学を読みふける。現在、保育士をしながら絵本や童話、紙芝居の創作、読み聞かせを行っている。画家・イラストレーター、モデルとしても活躍中。絵本は1500冊以上読破。2023年be京都にて初のプチ個展を開催。パレットクラブスクール19期絵本コース卒業。トムズボックス2019冬季ワークショップ修了。 『絵本作家になるには、絵が描けないと無理ですか』(CATパブリッシング)の挿絵を一部担当。 ●YouTube:【なないろ本屋/7's BOOKSHELF】 ●Instagram:【nana_museum】