◆見えない心の通い合い
そうやって言葉に頼らない二人のコミュニケーションは続いていきます。
やがてぼくの家族とおばあちゃんが同居するようになると、今度はぼくがおばあちゃんの部屋までオートミールを運ぶのが毎朝の日課になります。
ある朝、窓の外を見て雨が降っていることを知ったぼくは雨の中に飛び出します。あることを伝えるために。それを窓から眺める祖母の表情には、孫に対する慈しみと何とも言えない満ち足りた笑顔が溢れていました。
私は、このラストの一連のシーンが大好きです。一切の文字がなく無音の映画を見ているかのようで、そこに二人の見えない心の通い合いが伝わってきて何とも美しく思えたからです。思わず感動し涙しそうにもなりました。
ジョーダン・スコットの類まれなる繊細な感受性と、シドニー・スミスによる情感を溢れる絵の魅力によって、まるでその場にいるかのような臨場感さえも感じました。
詩人という言葉を扱う仕事をしながらも、言葉に頼らない、言葉を超えたものを熟知しているジョーダン・スコットならではの描き方であるとも感じました。
たとえるなら、文章と文章の間に込められた字間にある、作者の思いにも似た表現が、この絵本の中においては文字のない絵だけの場面に同じように込められているように感じられました。
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