「そしたら、でたらめ、言いいすな!」
庄兵衛は、強く、人々をたしなめましたが、
「んでも、名主様、ちかごろ、あっちの家でも、こっちの家でも、ニワトリやら、犬っこやらがいねぐなりしてす。何かが悪さしてるにちがいねでば」
みなの心配は強まるばかり。
そして、まもなく、本当に大変なことが起こったのです。
「名主様! 池のはたの三郎次の赤子がいねぐなりした!」
「一本松の八兵衛のわらしこもです! あと、あっちの家でも、こっちの家でも!」
「な、なんとした!」
これでは、庄兵衛も、のんびり、かまえてはいられません。
「さしずめ、性悪なクマか、オオカミのしわざだべおん。ここはマタギの五平さんにたのむべ」
マタギというのは、クマ狩りの強い猟師のことです。
庄兵衛と村人のたのみに、
「よっしゃ、まかしてけらいん!」
五平は、ドンと、胸をたたきました。
そして、自まんの鉄ぽうをかつぎ、太郎、次郎という、勇かんな兄弟犬を連れて、のっしのっしと、山に入って行きました。
ところが、それほど時もたたないうちに、五平が、真っ青な顔をして、山から、かけもどってきたのです。