「ほーら、いた」
秋斗(あきと)がのぞきこんだ葉っぱのうらには、ねらいどおりに虫がいた。
少年の母親じまんの庭は、草がボーボーで格好のエサとり場だ。
紙コップを虫の下にすえてポンと上から葉っぱをはじくと、あんのじょうちいさな虫はころりと真っ白な容器の底に落ちていった。
「おやつ、かくほ!」
紙コップを両手にそっと持ち、お母さんの居るリビングを通る時間をおしんで庭のさくを飛びこえた。駐車場をバタバタと走ってげんかんにまわる。
おなかを減らしたピイが待っているからだ。
げんかんに飛びこむと、もどかしくかかとをすり合わせてクツをぬぎ、秋斗は出まどに置かれた小鳥の保育ケージに声をかけた。
「ピイ、エサだよ」
すると、ちいさな保育ケージでうずくまっていたかたまりは、秋斗の声に飛びつくように首をのばし、大きく口を開いて鳴いた。
――ピイ、ピイ、ピイ!
とびらが開くのを待ちかねて、ちいさなケージから飛び出したピイは、紙コップをかたむけて転がした茶色い虫を一目散(いちもくさん)に食べにかかった。
いつだっておなかを空かせている、秋斗の育てるスズメの子。
それがピイだった。