「私はここからはるか北にある王国の王子でした」
「王子だった」と言ったのは、父親の王様が、先ごろ、亡くなり、今では、この若者こそが北の国の王だったからです。
「父は、しばらく、病でふせっておりました。
父が病になったのは、弟の王子が亡くなってからです。
父は、弟を、それはもう、かわいがっていたので、死んだとの知らせを受けた時には、世界が終わってしまったかのようななげきようでした」
弟の王子は、だれもが好きにならずにはいられないような、心の真っ直ぐな少年だったと、北の王は言いました。
そして、
「とりわけ白鳥を愛し、いつも、白鳥の羽をぼうしにさしていました」
と、付け足しました。
みんな、はっとしました。
白鳥の羽をぼうしにさした王子とは、いつか、いすに70日間、すわり続けて、死んでしまった若者のことだと、すぐに気づいたからです。
北の王は続けます。
「弟の死の様子を、家来たちから聞いた私は、とても腹が立ちました。
でも、同時に、興味もひかれました。それほどまでに、弟があこがれた王女とは、どんな女なのだろうと。
それで、自分の目で確かめようと、1年前、このお城へやって来たのです」
復讐(ふくしゅう)のしるし、ワタリガラスの羽をぼうしにさして、お城にやってきた王子は、王女の美しさに、すっかり、心をうばわれました。
なるほど、弟の王子が、命がけになったのも、無理はないと思いました。
そして、自分自身も、王女と結婚することを、心から願うようになったのです。