「私はいすにすわりました。30日。50日。70日。
弟がしんぼうした日数をこえたころから、私は、苦しくて、つらくて、がまんが、今にも、切れそうになっていました。
心のささえは、塔のお部屋の窓にうつる、王女様のかげ。
その王女様が、ただ、一言、『もう、おやめください』と言ってくれたら。
家来に、たった一言、『あの方をむかえに行きなさい』と言ってくれたら。
けれども、そんなきせきは起こりませんでした」
王女は赤くなって、うつむきました。
逆に、王様のみけんには、けわしいしわができ、にくらしげに、北の王をにらんでいます。
「80日目に、母が来ました。病が重くなり、明日をも知れない父王のことを知らせに。
母は、私に、帰ってくるように、せがみました。
『こんなに苦しんでいるお前を見捨てておくような、心の冷たい女を妻にしたこところで、決して、幸せにはなれません』
と、言って」
実は、それまでに、王子の恋心はどこかに消えてしまっていました。だから、母親といっしょに、すぐに、国に帰ることもできたのです。
「でも、私がそうしなかったのは、くやしくてならなかったからです。
あなた方は、私のしたことをむごいと言う。
だが、こんなバカげた仕方で、弟や、私や、他の若い命をもてあそんできたあなた方の方が、よほど、むごいではありませんか?」
王女への気持ちが、すっかり、冷めていたにもかかわらず、99日目まで、いすにしがみついていられたのは、
「ただただ、あなた方にしっぺ返しがしたかったからなのです」
と、ワタリガラスの王子は結んだのでした。