結那は、持っていたバッグからアンジさんにもらったパンを取り出しました。
「お母さんが、このパンみたいになっちゃう!」
結那は、クマのパンをアンジさんにわたしました。
お父さんが帰って来た時、ぎゅっとにぎりしめたのでしょう。
クマの顔は、まぶたの辺りがふくらみ、ほほが引っ込んだようになっています。
パンを見たアンジさんは、しばらくだまっていましたが、必死な結那の顔を見つめると、「わかった」といきをはきました。
「結那ちゃん、ゆっくり深呼吸しよう。いい? いきすって・・・よし、フーってはいて」
結那はいきといっしょに、あせりが外に出ていくのを感じます。
「ひとつだけ聞いていいかい? お母さんをクマパンにしているのは、だれ?」
「・・・お父さん・・・」
アンジさんの真剣な目に、結那は消え入りそうな声で答えました。