ぼくたちは夏の道で(9/12)

文・朝日千稀   絵・木ナコネコ

9 あいつ

「あれっ? あれはラヴちゃんじゃ・・・」
「ラヴちゃん?」
「ほら、あの車です。RAV4という車種だからラヴちゃんと猿神さんが」
「猿神さんって人の車なのか?」
「いいえ、猿神さんのは、キャロちゃんで・・・。いえ、いまは、猿神さんもキャロちゃんも、あっちに置きます」
猿神さんのこと、語り出したら、収拾がつかなくなりそうだ。

「RAV4、知り合いに、同じ車種に乗っている人がいるんです」
「家の前に停まってる」
「あっ、あれが、山野辺さんの」
古そうだけど、雰囲気のある、大きな家だ。
白い外壁に、濃いグレーの瓦屋根。
すっきりと剪定された松。
家の周りを囲む生垣。
どこを見ても、清々しくて、きりりとしている。山野辺さんから受ける印象と同じだ。

「家のお客かな?」
山野辺さんは車に近づき、観察している。
「フロントに、お多福のお面って、ちょっと笑える」
確認してみると、ナンバーは9618。
間違いない!
でも、どうして?

「やはり、知り合いの車です」
「だれだろう?」
「黒岩さんです」
「黒岩さんって、まさか・・・、黒岩金太ってことはないよな?」
「まさか、じゃなくて、まさしくそうです」
「お、驚き、桃の木、さんしょの木! どうして、あいつが、ここにいる?」

「知ってるんですか? 黒岩さんのこと」
「・・・うん。さっき話した、チビの下級生」
って、
「えええーーーーっ!!!」
びっくりが、止らない。
丹田に、力を入れる。口からはーっと息を吐き、鼻からすーっと入れてみたら、少しだけ落ち着いた。

朝日千稀 について

(あさひ かづき)福井県福井市在住。3猫(にゃん)と一緒なら、いつまでもグータラしていられる

木ナコネコ について

(きなこねこ)福井生まれ、大阪住まい。福井訛りの謎の関西弁が特徴。猫と珈琲と旅が好き。