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「うわあっ」
じろうは、びっくりして、ひっくりかえりそうになりました。
なんと、たくさんの火の玉がごおごお赤くもえて、ぐるぐるまわっているのです。

ほのおのまんなかに、ものすごくこわいかおをした人が立っていました。
とても大きくて、天井までとどきそうです。
かみの毛がさかだち、右手にかたな、左手にまるい玉をもっています。
うつくしいししゅうでかざられたきものが、フワフワおどって、じろうの顔にさわりそうです。

「ご、ごめんなさい。かってにはいったりして。おまいりにきた犬がはいったので、さがそうとおもっただけなんです。ほんとうです。すぐにかえります」
そういったものの、じろうはこわくてうごけません。

もうすぐ、夜が明けます。
「わわわわん」
じろうが目をさましました。

「ポチったら、うるさいなあ」
にわにでてみると、小さな犬がポチの水をのんでいます。
とてもつかれているようです。
茶色いみじかい毛にどろがいっぱいくっついています。

「どこからきたんだろう。おいで」
すると、しっぽをブンブンふって、とびついてきました。
じろうがだっこしました。

「わあ、ちっちゃくてかわいいなあ。ポチの赤ちゃんのときみたい。リュックサックしょってるんだね。あれ、てがみももってるの?」

くびわに、小さくたたんだ紙がむすんであります。
じろうは、まだ漢字がよめません。
となりのへやで、じいちゃんがねています。
じろうは、いそいでおこしにいきました。

すると、どうでしょう。
足にあったトイレと、ピアノがサーッときえました。
かゆかった足が、よくなったのでくまさんは、なきやみました。
大あわてで、まじょが、やってきました。

「ないてはいけないよ。ないたら家が、ぬれてしまうからね。ほら、大きなビンのハチミツをあげるよ」
きゅうに やさしくまじょが、言うのです。
くまさんは、やくそくの紙を思い出しました。
ないては、いけません。ないたら、まほうが、とけてしまいます。
と書いてあったのです。

でも、なこうとしても、なかなか なけません。
そこへ、リリーちゃんが、やってきました。
「おばあさま。ねむくなってきたわ」
リリーちゃんは大きなあくびをしました。
「ニョンブランブランツンツクリン」
まじょが、おまじないをとなえると、おなかにあるへやがあきました。
まじょと、リリーちゃんが、ベッドのあるおなかのへやの中に入っていきました。

まごのリリ―ちゃんはというと、まじょとおへやを見てまわっていました。
「もう、大きな音ね。うるさいわ、おばあさま、なんとかならないの」
まゆげをピクピクさせながらリリーちゃんは、口をとがらせました。

「こら。何をさぼっている。おきゃくさまをよろこばせないといけないのに、ねていてはだめだろう」
おこったまじょは、手にもったほうきをふり回しながら、どなりちらしました。

くまさんは、大きな音で目がさめました。
なぜならば、くまの耳だけが、まじょの声がきこえるようなしくみになっているからです。
『ねむたい時にねむれないなんて、なんてことだ』
くまさんは毛をさか立てました。

すると、トントントンと、口をだれかが たたくのです。
「なにをしているのだい。だいじなお客さまだよ。口を大きくあけなさい」
まじょが、とつぜん こわい顔をして言うのです。

あわてて、口を大きくあけると、まじょのまごのリリーが、
「ウフフ。おばあさま。わたしが、テディベアをすきと聞いて、ほんとうに家にしてくれたのね」
と、とびはねながらよろこんでいます。
「かわいいリリーちゃんのためなら、なんだってするのさ」
まごには、あまいまじょが、言いました。

「ウフフ。おばあさま。おしゃれな、おばあさまにしては、少し、じみではないかしら。耳のことなのだけれど、リボンをつけたらどうかしら」
「そうだね。かわいいテディベアの家にするには、リボンがひつようだね」
「あと一つ。おばあさま。少しよごれているみたいだから、きれいにみがいた方がいいと思うわ」
と、わがままなリリーが言うと
「リリーちゃんが、きれいにみがきましょうと言ったのが聞こえなかったのかい。はたらかないと ガブっと 食べてしまうぞ」
と、まじょが、こわい顔をして、リスをにらむのです。

そこには、チョコレートドーナッツで できたイスや、ケーキ、たくさんのおかしが、ありました。
くいしんぼうなくまさんは、おいしそうなおかしを見ると、思わず よだれが出てしまいました。

「うわーい。ぼくは、すきなだけ食べることが、ゆめだったんんだ」
「それでは、家になることに、さんせいなんだね」
まじょが、やさしくさそうのです。

「もちろん」
「それでは、やくそくの紙にサインを」
まじょが、ニヤっとぶきみにわらいながらその紙をさし出しました。

くまさんは、森のおくにある ゆうめいなレストランのコックです。
むねに、ハートのもようがある りょうりちょうのふくろうから、おつかいを たのまれました。
「かくし味には、ハチミツがいるんだ。くまさん、ハチミツをと ってきておくれ」

それを、聞いたくまさんは、重いこしをあげて、ハチミツをさがしに 行くことにしました。
ハチミツを取ろうとすると、はちはブンブンおこります。
そしてチクッとさしにきます・
くまさんは それが一番いやでした。

「ハリネズミさんのきんちょうをほぐしたまでのこと。心がほぐれれば、しぜんに体もほぐれるものです」
「ああ、ありがとう。心がこんなに晴れやかになったのははじめてです」
ハリネズミはなみだを流しながらサワガニにお礼を言いました。

「ぼくはさみしんぼうの森を出て、友だちをさがす旅に出ようと思います」
「なら、わたしが友だち第一号ですね」
ハリネズミがおどろいた顔をします。

「あら、ちがいましたか?」
「ちがいません! ちがいません!」
ハリネズミはなみだをぬぐうと、「また、ここに来ます」とやくそくしました。
「はい、おきゃくさまとしてだけでなく、ぜひおいしい紅茶を飲みに来てください」
「かならず!」
そうしてハリネズミは理容室をあとにしました。

サワガニは、小さくなってゆくハリネズミのまき毛のせなかを、いつまでもいつまでもながめていました。

「ハリネズミさんなら大丈夫」
サワガニはつぶやくようにはげまします。
「きっと、たくさんの友だちができますよ」

それからおだやかに話しかけます。
「おきゃくさまは読書をなさいますか?」
とつぜんのしつもんにハリネズミはとまどいましたが、「はい」と返事をしました。

「家にこもっていますから、本を読むことしか楽しみがありませんので」
「どんな本がお好きなんでしょう」
「そうですねぇ・・・、せめて本の中だけでも明るくありたいと、ハッピーエンドばかりの本を読んでいます」
「いいですねぇ、わたしもハッピーな物語は好きですよ。仕事につかれて気分がおちこんだ時に、そのような本を読むと元気が出てきます」

「ですよね! あっ、いや、・・・ぼくもそんな世界で生きてみたいとゆめ見ているんです」
「本を読む時に、お茶はしますか? わたしは紅茶とクッキーをかたわらにおいて、本を読むんですよ」
「あっ、おんなじです! ぼくも食べものと飲みものは読書にかかせません」 「どんな場所で本を読みます? わたしはベッドの上でうつぶせで、ゴロゴロしながら読んでいます」
「ぼくはカーペットの上にねそべります。カーペットのちょっとかたい、けれどもこもこした感じが心地よくて」

「ああ、分かります。たしかにやわらかいものもいいのですが、ちょっとかたくてつめたい感じも悪くないんですよね」
サワガニとハリネズミは小さく笑い合いました。

「おきゃくさんはどちらから?」
とりあえず間を持たせるために、サワガニはハリネズミに話しかけます。

「ぼくはさびしんぼうの森から来ました」
「そこはどんな森なのでしょう」

「とても・・・暗い暗い森です。あまりにも暗いものですから、森のどうぶつたちはみんなおびえてくらしています」
「でもオバケが出るわけではないでしょう?」

「オバケは見たことありません。だけど、何かがいると思わせるほど暗いのです。そこでぼくは、体をちぢこませてくらしているのです」
「そうですか・・・。なら、こちらの森にお住まいをうつされたらいかがでしょう」
「そんなっ、ぼくのようなとげとげしい生きものがいたのでは、みなさんにごめいわくをかけてしまいます!」
ハリネズミはそう言うと、小さくため息をつきました。
「ぼくのようなやつは、さびしんぼうの森がおにあいなのです・・・」