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〈ぼくは、もうだめになりそうだ〉
そう思ったとき、
「おそくなってごめん。るすばんごくろうさん」
大きな声がして、あきらさんがかえってきた!

「かさ、もっててくれてありがとう」
あきらさんは、ぼくの頭や体をもとのかたちにもどそうとしてくれた。
でも、もうゆきが少なくてうまくいかない。

「きみがとけていなくなったらさみしいな」
あきらさんは、ぼくのまえにしゃがんでつぶやいた。でも、すぐに
「そうだ! いいこと思いついた」

そういって、うちから大きなはこをもってきた。
「ここが、きみのベッドだよ」
はこの中に、ぼくの目と、口と、鼻と、手をきれいに、ならべて入れてくれた。
さいごに、きいろのぼうしをてっぺんにおいていった。

「こんどゆきがふったらまたあおうね。それまで、ゆっくりおやすみ」
ぼくは、ほっとした。
なるべく早く、またゆきがふりますように。

それから、通る人はみんな、ぼくを見るとしんぱいそうな顔になってきた。
ほんとうは、ぼくもしんぱいなんだ。
〈あきらさん、早くかえってこないかな〉

とうとう、うでがだらんとさがって、かさがじめんにおちてしまった。
〈たいへんだ! かさはちゃんとあきらさんにわたさなきゃ。ぼくは、るすばんの ゆきだるまなんだから〉

そのとき、学校がえりの小学生が通りかかった。
朝、ぼくのほっぺをさわったあの男の子だ。
「このあたりで、まだとけてないゆきだるまはきみだけだよ。すこいなあ」
そういって、かさをおなかのよこにたてかけてくれた。

〈よかった! 〉
けれど、ぼくもだんだんとけて、せがひくくなってきた。
体も顔もかたむいて空しか見えなくなった。

「ああ。あきらさん、早くかえってきて! 」
お日さまは、西の空にしずみかけて、通る人はみんないそぎ足でかえっていく。
もう、だれもぼくを見なくなった。
とうとう、ぼくはかさとおなじ高さの、ただのゆきのかたまりになった。

しばらくすると、男の人がやってきた。
「あれ? あきらくんしごとにいったのか。かさ、かえしにきたんだけど・・・」
それから、ぼくを見て
「やあ、ちょうどいいるすばんがいるね。このかさもっててくれる?」
そう言って、ぼくの手にかさをひっかけた。

「あきらくんにつたえとくからさ、たのむね」
それで、ぼくはほんとうに、るすばんのゆきだるまになった。

お日さまが、空のだいぶ高いところにのぼって、少しだけあたたかくなった。
「ぼうしがゆがんできちゃったわね」
かいものがえりのおばさんが、ぼうしをまっすぐになおしてくれた。

しばらくして、うでが下にさがってきた。
「かさがおちそうだよ」
ゆうびんやさんが、ぼくのかさをもったうでを、ぐっと体にさしこんでくれた。
〈ありがとう。だいじょうぶです。ぼくはるすばんのゆきだるまですから〉

お昼をすぎると、ずいぶんあたたかくなってきた。
みちのゆきは、もうきえてしまった。
ぼくも少しづつとけてきて、目のまわりから、ポタポタ水がおちはじめた。
「なかないで」
ようちえんからかえる女の子がぼくの目を、ハンカチでふいてくれた。
〈だいじょうぶです。ぼくはるすばんのゆきだるまですから〉

ぼくは、ゆきだるま。
ゆきがどっさりつもった朝、生まれた。
目は松ぼっくり、口は赤いおはし、鼻はしゃもじ、りょううではほうき。

「よーし! なかなかよくできたぞ」
ぼくを作ったのは、あきらさん。
じぃっとぼくを見つめて大きくうなづくと、きいろいけいとのぼうしをぬいでぼくの頭にのせた。
「ゆきだるまくん、るすばんたのむよ」
そういってしごとに出かけていった。
それで、ぼくはるすばんのゆきだるまになった。

「まあ、すてきなゆきだるまねえ」
赤いコートのおねえさんが、立ちどまって、ぼくの顔をのぞきこんだ。
〈エッ すてきだなんてはずかしいや〉

「大きなゆきだるまだな」
学校に行くとちゅうの男の子が、ぼくのほっぺにさわった。
〈ウフッ。くすぐったいや〉

通る人はみんなぼくを見て立ちどまる。
ぼくはうれしくて、ゆきだるまに生まれてよかったとおもった。

当サイトの公開作品「もらった子ネコ、返します」が、この度書籍になりました。

タイトル:『もらった子ネコ、かえします
著者名:中村文人・文 みろかあり・絵
出版社:CATパブリッシング

本書の文は当サイトの主宰・中村文人、絵はみろかありさんが担当。装丁、本文デザインは、 ナークツインさんに担当していただきました。

以下のストアで発売されます。
・POD(紙版):700円+税
・電子書籍:560円+税

購入ははこちらから:『もらった子ネコ、かえします

「・・・ゆい・・・結那(ゆいな)」
あたたかい手が、結那の肩にやわらかくふれました。
結那は、もぞもぞと首をふりました。

「う~、う、うんん・・・あっ、お母さん」
目に飛び込んだお母さんの姿に、結那は、すっくと体を起こしました。
そして、うでをせいいっぱいのばすと、お母さんをつかみました。
「おかあさん、おかあさん」
泣きながら胸にしがみつきます。

「ごめんね、心配かけて」
マスクごしに聞こえるお母さんの声にも、涙がにじんでいます。
お母さんのにおいにホッとした結那は、顔をあげると、不思議そうにあたりを見回しました。
窓の外は、すっかり暗くなっています。

「結那、心配しすぎてつかれちゃったんだね。ねちゃったからって、アンジさんがふんわりパンに連れてきてくれたんだよ」
「ありがとう、もう大丈夫だからね」と言いながら、お母さんは結那を抱きしめました。

早く、早く帰らなきゃ。お母さん、待ってて。
結那(ゆいな)は、お母さんといつも行くカラアゲ屋さんに急ぎます。
ここのカラアゲが、お父さんは大好物なのです。

しかし、店の前に着いた結那は、目の前が暗くなりました。
シャッターが下りた店の前には、「完売」と書かれたチラシが、結那をこばむかのようにふさいでいます。
結那は、食い入るようにチラシを見つめます。
しかし、チラシもシャッターも、そよとも動きません。
どうしよう・・・お母さん。

そのときです。
アパートのドアのカギを回す音が室内にひびきました。
キッチンが玄関に面している作りのアパートなので、結那(ゆいな)たちから、カギが回る様子は直接目に入ります。

「結那、パン、袋にもどして。お出かけ用のバックに入れて」
お母さんの緊張した声に、結那は急いでパンをしまい、背すじをのばしました。

「腹へったなぁ、何かないか?」
ドアを開けたのは、結那のお父さんでした。
「あら、あなた。お仕事、今日早かったのね」
お母さんは、急いで玄関先に向います。

「はあ? おまえ、ばか? 外回りに決まってるだろう。おれは優秀だから、5時までに戻ればいいんだよ。それともなに? おれが帰ってくると困ることでもあるわけ?」
お父さんは、首をななめにかたむけ、たたみかけるように言葉を重ねます。そして、お父さんのスリッパを出そうと背中を向けたお母さんに、「チッ」と舌をならしました。

お父さん、機嫌悪い・・・。
「・・・ご、ごめんなさい」
お母さんは急いでスリッパを並べました。そしてキッチンに立つと、ごはんを作り出しました。

かっぱがかんちがいしているので、おしょうはもっとこわがらせます。
「おっとさんに井戸からでてもらって、もっとこわい顔でしかってもらおうか?」
「いやだ、いやだ、やめてくれー!」
とうとうかっぱは、泣きだしてしまいました。
「おしょう、どうしたらよい? おっとさんが、おこってなさる。」
泣きじゃくるかっぱを見て、こわがらせすぎたとおしょうさんは、はんせいします。

「おしょう、井戸はふしぎだなぁ。 こんな小さなあななのに、くんでもくんでも水がでてくるなんて、おどろきだ!」

なんども水をくんでは、あたりにその水をまくかっぱ。
「やめんか、水がもったいない」
大きな声でしかりましたが、かっぱは言うことを聞きません。

つぎに井戸の中が気になったのか、じっとのぞきこんでいました。
おしょうさんはかっぱがおちてしまわないか、しんぱいです。

「あれ、なにか見えるぞ?」
もっと体をのばして、中に入ります。
「これ、あぶないぞ!」
今にもおちそうなかっぱの足を、おしょうさんはつかみました。