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月夜のネコ4チャリンと音がしました。
お面屋の手の中で、お月さまから外したはずのお面が銀貨に変わっていました。
「外したのは何のお面だったの? 普通のお月さまにしか見えなかったけど」
「普通のお月さまなんてないよ。何かに見えるはずだ。あんたは何に見えたんだい。今晩のお月さま」
「うーん、そうねえ・・・」
トモちゃんは今晩ここに来るまでに見たお月さまを思い出して、そして言いました。

「ひよこの頭みたいだって思ったわ」
「じゃあ、そうだったんだろうさ」
「意味わかんないわ」
「お月さまの顔は見る人によって変わるのさ。ここにあるお面はお月さまがこんな風に見えるって思った、いろんな国のいろんな人の想像力の姿なんだ」
トモちゃんは並んでいるお面に目をやりました。

月夜のネコ3トモちゃんはお客が来るまで、お金のかんじょうの手伝いをしながら待っていました。

そのうちどのくらい時間がたったのか、さっぱりわからなくなっていました。長いような、まだ少ししかたっていないような。
そしてついに――
「来た」
お面屋が言いました。空を見上げています。
「えっ、空? どこ?」
お面屋が指差しました。そこには――
「お月さまだよ」
と言ったトモちゃんでしたが、次の瞬間驚いて「ぎゃっ」と声をあげてしまいました。

ずっと空に浮かんでいたお月さまが、突然ゆらゆらとゆれたかと思うと、そのままゆっくりと落ちてきたのです。

月夜のネコ2-1目の前にくじ引き屋さんが見えた時、
「あっ!」
トモちゃんはおもわず声をあげてしまいました。
くじ引きのお店の向こう側、そこはもう屋台はなく、林になっているのですが、茶色いものがすっと横切ったのです。
ネコのように見えました。
しかも、あの姿は数日前に死んでしまった飼いネコのチャップにそっくりでした。

トモちゃんは迷わず、道をそれ、林へと向かいました。
「あれはきっとチャップの幽霊だわ。お祭りに連れてきたこともあるし、喜んでたから、きっと今日だけもどってきたのよ」
小さな声でそうささやきながら、どんどん進んでいきました。
神社の林は広く深く、お祭りの明かりも声もだんだんと薄くなっていきます。

「確かにこっちの方へ走っていったんだけどなあ」
ネコの姿は見えません。
少し不安になって振り返ると、屋台の明かりは随分小さくなっていました。
前方に目を戻すと、真っ暗な林が広がっています。
その奥の方に―――ポツンと明かりが見えます。
黒い木の影の合間に真っ白な光があるのです。トモちゃんは目を凝らしました。
「何だろう」

祭りになると、夜が明るくなる。と、トモちゃんは思っていました。
いつもは真っ暗な神社の林が、その日だけは遠くから見ても空の色が変わるのです。
神社へ行く道も、うちの近所さえも、祭りへと向かう道はすべて、空気が黒から水色になるような気がしていました。月の明かりも加わっていたでしょう。今日はきれいな満月です。

月夜のネコ1-1今夜の祭りもにぎやかでした。いつものように、たくさんの屋台が並んでいて、大人も子供もみんな笑っていました。
金魚すくい、りんごあめ、綿菓子、花火のお店もあります。
今晩、トモちゃんはお姉ちゃんといっしょでした。
お父さんお母さんは仕事で早く帰れないので、二人で行くようにと、おこづかいを置いていってくれていました。お姉ちゃんは六年生、トモちゃんは二年生です。

ふと気がつくと、池から出てきたカバ男くんが、ねそべっています。
「じゃあ、ぼくにも何か作ってよ」
ポリポリおしりをかきながら、みんなにたのみました。
「『水の中のカバ!』自分の力のはっきできるところでがんばること」
「『陸の上のカバ!』カバ君たちってああ見えて、時速40キロで走れるんだよ。だから人は見かけによらないってことで」
ウサギのピョン子やスカンクのプープーも、はずかしそうに、意見を出しました。
動物ことわざ会議4場面「ねえ、カバ男君は、どれがいいの?」
返事がないと思ったら、なんとカバ男くんは、グーグーいびきをかいています。
「ありゃまあ、カバ男君、ねちゃったよ。でも、なんだか楽しいね。こうしてぼくたちでことわざ作るの」
「ねえ、ねえ、もっと作ろうよ!」
子どもたちもいっしょにワイワイガヤガヤことわざ作りが始まりました。
「やれやれ。今日の会議はひつようなかったようじゃな。そもそも、人間がわれわれのことをどう言おうが気にすることはなかったんじゃ」
議長のヤマネコおじいは、ぼそっとつぶやくと昼ねをしに家に帰りました。
さて、ヤマネコおじいが昼ねからさめるころには、いくつの動物ことわざができているでしょうね。

「『犬が西向きゃ尾は東』なんて、当たり前のわかりきっていることのたとえだそうですが、人間も本当におかしな生き物だと思いますよ。人間だって前を向いたらおしりは後ろですよねえ。そんな当たり前のことを、なぜわざわざことわざにするんでしょうねえ」
犬のポチもふしぎそうです。
「そういやあ『犬えんのなか』っていうのは、なかがとても悪いことのたとえだっていうじゃないか。だれがオレたちサルと犬のなかが悪いって決めたのかねえ。人間の子どもだって『ももたろう』の話は知ってますぜ。ももたろうのけらいは犬、サル、キジ。なかよくなけりゃあ、おになんてたいじできないことくらいわかりそうなもんなんだがなあ」
物知りのサルのすけが首をかしげました。

みんなあれこれ人間にもんくを言いはじめたので、だれが何を言っているのか聞こえなくなったときです。
「ふわぁ」
大きなあくびの声にみんな、びっくりしました。
「ライオンは百じゅうの王と言ってくれる人間はいい生き物だと思うよ」
村長のライオン丸がのんびり口を開いたので、みんな急にだまりました。
「ほめてもらってるのは村長くらいなもんだよねぇ」
あちこちで、みんなのひそひそ声が聞こえます。

そのとき、後ろのほうから黒ヒョウの子どものヒョウタロウが出て来ました。
「みんないいなぁ。ぼくなんて、人間に悪いことすら言われないんだよ」
「そういえば黒ヒョウが何とかって聞かないわねえ」
みんなで考えましたが、だれ一人思い出せません。
「それじゃあ『暗やみに黒ヒョウ』っていうのはいかが?」
ネコのミー子がていあんすると、みんな大さんせい。
3場面
「かくれるのが上手な様子を言うんだね?」とコン吉が聞くと
「いつ何があるかわからないからゆだんするなってことでしょう?」とブタ子さん。
どっちがいいかなあとみんながなやんでいましたが、「かくれるのが上手なことがいいなあ」というヒョウタロウのひとことであっさり決まりました。

「みんなのは、まだいいんじゃないですかい? 『とらのいをかるキツネ』なんてひどいもんですぜ。なんでも、いきおいをもつ人にたよって、いばる人のことらしいんですがね。いつ、おいらがとらさんの力をたよって、いばったっていうんですかい。人間が勝手にお話を作っただけじゃないですかい」
キツネのコンキチは、だんだんこうふんして、つり上がった目をますますつり上げました。
動物ことわざ会議2場面「そういやあ、いじめっ子のけんたくんといっしょにいるしゅんすけくん、けんたくんといっしょのときだけ、いばってますぜ。けんたくんのいないときは、こそこそしてるのに。『けんたのいをかるしゅんすけ』っていうのはどんなもんです?」
「そうよね。人間だって、同じ人間の名前のほうが、わかりやすいわよね」
木のえだにいたリス子がさんせいすると、
みんなも「そうだ。そうだ」とはく手したので、森の木が、ざわざわゆれました。

「ぼくは『たぬきねいり』っていうのがゆるせません。都合の悪いときなどに、ねたふりをすることらしいですが、ぼくはそんなひきょう者じゃありません。たしかにぼくはおくびょうで、おどろいたときに、ショックでたおれて少しの間、気をうしなうことはありますよ。でも、それとこれとは、まったくちがうと思いませんか?」
いつもはのんびりやのタヌキのポンすけも、ゆう気をもって思い切って発言しましたが、その顔は真っ赤でした。

動物村では、毎月一度、会議が行われます。
「今日は、何の会議だろうね」
「きっと、あれだよ。この前、サルのモンキチくんが、木になっていた実を全部食べちゃっただろう? あのことについてだよ」
「いや、アヒルのガー子さんが、池をひとりじめしてることじゃないの?」
村の動物たちが、がやがやにぎやかです。

「おしずかに! 今日は人間界におけるわれわれのイメージをどうかえていくかについての話し合いじゃ。まず、ブタ子さんの話を聞こうかのう」
年取った、議長のヤマネコおじいが、せすじをのばして立ちました。
「わたくし、『ブタにしんじゅ』がゆるせませんわ。ねうちのわからない人には、どんなにかちのあるものをあげても、むだなことのたとえだそうですが、わたくしだってしんじゅの美しさくらいわかりますわ」
動物ことわざ会議1場面
「まあ、なんてしつ礼なのかしら。でもそれなら、ネコに小ばんっていう言葉もおんなじですよ。そりゃ、小ばんがあっても、この動物村では使えませんがね。あたしについていえば『ネコにカツオぶし』っていうのもあるんですよ。ゆだんできないじょうきょうをまねくことらしいですけど。目の前においしそうなごちそうがあったら、だれでも、すぐ食べちゃわないこと?」
ネコのミー子が早口でもんくをいったあと、つづけます。

「あたしはね、山田さんちのたかしくんが、お母さんが買い物に出かけた後、かくしてある箱に入ったチョコレートをこっそり食べてるのを知ってるんですよ。それなら『たかしにチョコレート』でいいじゃありませんか。なんでわざわざネコのせいにするんでしょうねえ。まったく人間にはあきれちゃいますよ」
ミー子のことばに動物村のみんなはうなずきました。

星の砂『ケータイ小説&コミック 星の砂』では子供向けの童話と絵本を募集。
文章のみ募集の童話と絵と文章で組み合わされた絵本の二つの部門に分けて募集を行います。

【童話部門】【絵本部門】共通要項
1.募集期間
2016年4月1日~2016年5月31日 まで。
2.発  表
厳正なる審査の上、2016年7月下旬頃に星の砂サイト上にて発表。
3.賞  金
優秀賞(各部門1名) 5万円
4.受賞者スペシャル特典
「電子書籍 星の砂文庫」(PC用サイト)で挿絵と朗読をつけて電子書籍化&販売。
◆詳しくはこちらまで 第6回 童話と絵本コンテスト 開催概要

中庭には行かなかったけれど、ぼくはやよいさんのことが心配で、何度か近くまで行ったこともあります。
半年たったころには、やよいさんのかなしみは、少しうすらいだようでした。

ある時、ぼくは、家の中がバタバタとそうぞうしくなり、部屋の中にダンボールがつまれていくのに気がついたのです。
《もしかしたら、やよいさんは、おひっこしするのかな》
明日がやよいさんのおひっこしという日のことです。
ぼくは、さいごのあいさつをしに行くことにしました。
どうしても、やよいさんに、今までのお礼が言いたかったし、「元気にくらしています」ということもつたえたかったのです。
やよいさんは、近所のお姉さんと立ち話をしていました。
「これまでいろいろお世話になりました。ひっこすといっても、それほど遠くはないから、また遊びにいらしてね」
やよいさんがお姉さんに、そう話しているときに、ぼくはその横をゆっくり通りすぎました。
やよいさんは、すぐにぼくだとわかってくれました。
でも、そのお姉さんが、あんまりネコがすきじゃないことを知っているので、はっとした顔はしたものの、それまで通りお姉さんと話をしながら、だまってぼくにしせんを送ってくれました。
「今まで、ありがとうございました。ぼくは元気でやっています。だから安心して、おひっこししてください」
そうニャア、ニャア言って、ぴんと立てたシッポを3回ふりました。
しっぽで3場面 やよいさんにもその言葉はとどいたようで、ほっとした様子でした。
そして同時にさびしそうな顔もしました。
「さようなら、やよいさん。やよいさんもお幸せに!」
ぼくは、もう一度、やよいさんに大きくシッポをふって、後ろをふり向かず、歩いて行きました。