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「あっ、あー! それ! ソラにそっくり!」
孝太は絵を指差して大きな声で言った。
くるみ、ゆい、孝太の三人は学校で「芸術の秋」という宿題を見せ合っていた。みんな好きに絵をかいて持ってきなさいという宿題だ。
ゆいはクリとぶどうの写生、孝太は真っ赤なもみじをダイナミックにえがいたものを持ってきていた。

くるみの絵が上手いことはみんな知っているので、最後に見せることになっていたのだ。
「え、孝太はソラを知ってるの? この子、本当にソラっていうの。うちの新しい家族」

花開いたキンモクセイとローズマリーのある庭の風景。そして秋らしい真っ青な空のえがかれたくるみの絵はやはりだれよりも上手だった。そして、その絵には大きな犬が一頭かかれていた。そばには水色のゴムボールもある。

「あ! やっぱり。里親をぼしゅうしてたときに、うちも希望してたんだよ。その時は元の飼い主さんの知り合いのところに、トライアルに行ってるって聞いてた。そこでダメだったらうちにも来る予定でさ。あれ、くるみの家だったのか。くっそー! いいなぁ」
「うん、ごめんね。ソラは、うちの子になったから」

「くるみ、聞いてくれ。エルは、最期まで家族のみんなやくるみのことが大好きだったよ」
お父さんの言葉に、カッとくるみはほほを染めた。

「そんなの、わかんないじゃん! 犬はしゃべらないんだから。エルは、『なんでここにいてくれないの?』って思ってたかもしれない。悲しい思いさせたかもしれないっ! わたしは犬のこと好きになったら悲しいから、好きになるのをやめたんだもん。ソラは・・・ソラはべつに悪くないけど。お父さんは変だよ。犬なんてぜったいわたしたちより先に死んじゃうのに、どうして何回も飼おうとするの? 悲しいだけじゃない!」
くるみは言った。くるみは涙が出そうなのをこらえ、ぎゅっと口をとじる。
くるみをたしなめようとするお母さんを押しとどめて、お父さんはゆっくり、そしてきっぱりと言った。

「彼らと出会えたことが、幸せだからだよ」
「えっ・・・?」
「出会えて幸せだった。それはぜったいに変わらない」
くりかえしてお父さんは言った。

ソラがくるみの家にきて、明日で2週間だ。
今日もすがすがしく晴れている。庭で画用紙に色をぬるくるみの横に、ソラはねそべっている。何度も向こうに押しやってももどってくるので、くるみもとうとうあきらめた。
「部屋の中にいたらいいのに」

くるみは口をとがらせたが、ソラがいるのにもすっかりなれてしまって、そばによってこられるのも、正直いうとそんなに悪い気分じゃない。くるみがなでてやったら大喜びするんじゃないかと思うけど、それはいつもお父さんやお母さんがやってあげてるから、と、くるみは自分の気持ちにフタをする。

絵がいちだんらくするとのどがかわいていて、くるみはリビングにもどった。すると、さっきまでそろってテレビを見ていたふたりのすがたがない。そして、ろうかでひそひそとお母さんの声がするのに気づく。くるみはそっと近づいた。

「そうね、トライアルの間に、もしくるみの気持ちが変わるならと思ったけど。あれじゃ、くるみにもソラにもかわいそうなことになるかもしれない」
(トライアル? トライアルってなに?)
なにか深刻(しんこく)そうに話している様子に、くるみはドキッとする。しかも話しているのはソラのことだ。お母さんのため息が聞こえた。

「わたしはソラちゃん好きだったから、残念だけど。ソラの行く先は、もうひとつ候補(こうほ)があるんでしょう?」
「ああ、そこもうちと同じ三人家族で、息子さんも犬が好きだっていうから」
残念そうなお父さんの声が続く。
(ソラが、よその家にいく相談だ!)

それから数日たった、秋晴れの朝のことだった。
今日は祝日だ。平日の休みはあまりないので、くるみはなんとなくそわそわした気持ちでいる。
「今日は、スケッチ日和!」

庭にはり出したウッドデッキに出るなり、くるみはパッと顔をかがやかせた。キンモクセイの木の下には、ローズマリーの大きなしげみが育っている。さわやかな空に、こい緑がよくはえて、絵にするのにとてもいい。
くるみが画用紙と絵の具のセットを持ってきて、パレットに熱心に色を作っていると、大きいまどを開けたままだったのでソラがひょっこりと顔を出した。外のにおいをすんすんとかぐと、しばふの庭に飛び出していく。

「ちょっと、うろうろするとじゃまだよ!」
くるみがもんくを言うと、おうえんされたとでも思ったのか「オフッ!」ときげんのいい鳴き声を返して、ソラはおどるような足どりで庭で遊びはじめた。しばらくして落ち着くと、ソラはまたすっと部屋の中に入って、なにかをくわえてもどってきた。

「ソラ、ちゃんと足をふかないとダメだよ。え、ちょっとなに?」
ぬれた鼻面をぐいぐいとくるみに押しつけ、ソラはポトリとなにかを落とした。
水色のゴムボールだ。好きな人のところに持っていくと聞いた、あのゴムボール。

ソラはあいきょうのある犬だった。
人が話していると、トコトコとよってきて、ちょこんとこしを下ろして楽しそうに耳を動かしている。人がなにを話しているのか、聞いているような顔つきだ。
ソラは6才のりっぱな大人で、やんちゃそうな顔つきなのに性格はおとなしく、とてもかしこい犬だった。

「ソラはいい子だねえ! おりこうさん」
お母さんがほめるのをうれしそうに聞いて、ぶんぶんしっぽをふりまわす。満足そうに口を開けて笑う顔は、やっぱりエルににている。

でもエルはゆっくりしっぽをふるタイプだったので、そういうところはちがうんだなとくるみが考えていると、ソラがじっとこちらを見つめているのに気づき、ふいっと顔をそらす。
ソラは残念そうに部屋のすみに去っていった。すると、お母さんがそばにきてないしょ話をするようにそっとソラを指差した。

「ねえ、くるみ見て。ソラ、いつもあのボールをそばに置いてるの」
ソラは部屋のはしで、前にエルが使っていたクッションの上に丸くなっている。そのそばには、ソラの宝物だという水色のゴムボールがあった。

結局、くるみの家には犬が一頭やってくることになった。「ソラ」という名前の犬だという。
ゴールデン・レトリーバーのざっ種で、金色のきらきらした長い毛を持っていて、とても楽しそうなひとみをしているのだそうだ。

「その目がね、すごくエルににてると思ったんだ」
そう話すお父さんは楽しそうだ。
ソラはミックス犬だからゴールデン・レトリーバーとちょっとちがってピンと立った耳をしているという。それがソラのチャームポイントらしい。

「ソラはボール遊びが好きらしい」
「へぇ、そうなの! エルも好きだったわよねえ」
ソラのことを話すお父さんとお母さんはとても楽しそうで、少しだけくるみも笑う。けれど、あわててまゆをぎゅっとよせてこわい顔を作った。くるみは犬がキライなのだ。

「くるみちゃん! 見て、うちの子! かわいいでしょう? いまから散歩に行くんだ」
習い事に行くとちゅう、公園のわきを歩いていたくるみは足を止めた。ブランコのそばで大きく手をふっていたのは、ゆいと孝太(こうた)だ。
くるみと同じクラスの友だちだった。

その足元に、みかけない犬が1ぴきいる。まだ子犬のようだった。
ふたりはくるみの元に走ってくる。もちろん犬もいっしょだ。

くるみはまゆをよせて、キッパリと言った。
「わたし、犬はキライだから、近づけないで!」
かけてきたゆいと孝太は、おどろいて立ち止まる。

いっしょに走ってきたたれ耳でどう長の子犬は、くるみを見てうれしそうにしっぽをふっていたが、ゆいはあわててリードを引っぱると、自分のところに子犬をひきよせた。
くるみはいやそうに、ふいっと顔をそむける。ゆいはずいぶんこまった顔をしていた。

「えっ、でも、くるみちゃん、犬のこと・・・」
「へえ、くるみは犬キライなんだ。犬ってさ、かわいいよ? オレの家も、いま犬を飼(か)う相談してるから、ゆいのとこの子犬、見にきたんだ。くるみも、ちょっとなでてみたらいいのに。いまから、ゆいのお母さんといっしょに犬の散歩に行くんだけど、くるみもどう?」

「ただいま。おなかすいたでしょう」
ドアが開く音と同時に聞こえた声に、結那(ゆいな)の顔がほうっとゆるみました。
お母さんが帰ってきたのです。

「ごめんね、今日お店こんでてね」
お母さんの仕事は、いつもは13時半に終わります。
ですのでお母さんは、小学校三年生の結那より、早く帰ってきます。

しかし今日は、お客さんが多かったのでしょう。時計は、15時40分を指しています。
結那は、秘密の場所にあるカギで家に入り、ひとりでお母さんの帰りを待っていました。

「大丈夫だよ。給食食べたから」
にっこり笑った結那のおなかが、ぐうっと音を立てました。
「もう。がまんしないでいいのよ」

お母さんは結那の頭をなでると、持っていた袋を開けました。
中には、少し形のくずれたクマやパンダのパンが入っています。
クマのパンは、はちみつ味、パンダの顔の中身は、あんこです。

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ぬりえダウンロード しばいぬぬりえ

シュッ!
オオカミが、えものめがけて、とびかかった。
えものは、いっしゅんビクッとして、すぐにうごかなくなった。

「どうだ。ウサギなら、人間も食えるだろ。おれも食うから、半分こしよう」
オオカミが、くわえていたウサギをぽとりとおとす。丸々とした、
なかなかおいしそうなウサギだ。
「うん。ウサギは食べたことないけど、やいてくれれば食べられると思うよ」

男の子が言うと、オオカミが首をかしげた。
「やいてくれれば?ヤイテクレレバってなんだ?」
「だからさ。フライパンにあぶらをしいて、じゅう~って、料理するんだよ。生のままじゃ、食べられないから」
「おいおい、いいかげんにしてくれ。オオカミのおれが、そんなことするわけないだろ。生のままがいやなら、おまえが自分でどうにかしろよ」
「えっ」

男の子はしばらく、ウサギを見つめていたが、
「・・・むりだよ。お肉はふつう、スーパーとかで買うんだ。こう、ちゃんと切り分けて、パックづめになっててさ。そのままやけばいいように、なってるんだよ。こんな、丸々一匹のウサギなんて、どうしたらいいか、分からないよ」
と、泣きそうなかおをした。
オオカミは、思わず天をあおいだ。