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「ただいま。おなかすいたでしょう」
ドアが開く音と同時に聞こえた声に、結那(ゆいな)の顔がほうっとゆるみました。
お母さんが帰ってきたのです。

「ごめんね、今日お店こんでてね」
お母さんの仕事は、いつもは13時半に終わります。
ですのでお母さんは、小学校三年生の結那より、早く帰ってきます。

しかし今日は、お客さんが多かったのでしょう。時計は、15時40分を指しています。
結那は、秘密の場所にあるカギで家に入り、ひとりでお母さんの帰りを待っていました。

「大丈夫だよ。給食食べたから」
にっこり笑った結那のおなかが、ぐうっと音を立てました。
「もう。がまんしないでいいのよ」

お母さんは結那の頭をなでると、持っていた袋を開けました。
中には、少し形のくずれたクマやパンダのパンが入っています。
クマのパンは、はちみつ味、パンダの顔の中身は、あんこです。

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シュッ!
オオカミが、えものめがけて、とびかかった。
えものは、いっしゅんビクッとして、すぐにうごかなくなった。

「どうだ。ウサギなら、人間も食えるだろ。おれも食うから、半分こしよう」
オオカミが、くわえていたウサギをぽとりとおとす。丸々とした、
なかなかおいしそうなウサギだ。
「うん。ウサギは食べたことないけど、やいてくれれば食べられると思うよ」

男の子が言うと、オオカミが首をかしげた。
「やいてくれれば?ヤイテクレレバってなんだ?」
「だからさ。フライパンにあぶらをしいて、じゅう~って、料理するんだよ。生のままじゃ、食べられないから」
「おいおい、いいかげんにしてくれ。オオカミのおれが、そんなことするわけないだろ。生のままがいやなら、おまえが自分でどうにかしろよ」
「えっ」

男の子はしばらく、ウサギを見つめていたが、
「・・・むりだよ。お肉はふつう、スーパーとかで買うんだ。こう、ちゃんと切り分けて、パックづめになっててさ。そのままやけばいいように、なってるんだよ。こんな、丸々一匹のウサギなんて、どうしたらいいか、分からないよ」
と、泣きそうなかおをした。
オオカミは、思わず天をあおいだ。

「ほれ、どうだ。食べものだぞ」
オオカミが、くわえていたシャツをはなした。男の子は、ポテッと地面におちる。
「いったぁぁっ!」
ざっくりと、おしりに何かのトゲがささり、男の子は悲鳴を上げてころげまわった。
「いたいぃぃ! 何これ!」
おしりをさすりながら見てみると、周りには、くりのイガがごろごろ。
「おれはこういうのは食わないが、人間は食うだろ。さっさと食え。そして太れ」
オオカミにうながされて、男の子は、おそるおそる、くりのイガに手をのばした。
トゲをつまむようにして、そっと持ち上げ・・・そのままじっと、固まったように動かない。

「・・・どうした?はらがへってるんだろう。早く食え。そして太れ」
オオカミが、横からつっつく。男の子は、こまったような顔をした。
「これ・・・どうしたらいいの?」
「はぁ?」
オオカミは、ぽかんと大口をあけた。

「どうしたらって、食えばいいだろ? 人間は、くり、食うだろ?」
「いや、何て言うか、ぼくの知ってるくりとはちがうって言うか。これじゃ、食べられないんだけど」
男の子は、しげしげとトゲのかたまりをながめ、くるりと回してみたり、高く持ち上げて下からながめてみたりする。

「ぼくがいつも食べてるくりは、もう、トゲとか、なくってさ。パックに入ってるんだ。おうど色で、甘いにおいがして、そのまま食べられるの。お店で買ってくるんだ」
どうやら男の子は、くりといえば、パックの甘ぐりしか見たことがないようだ。

「くりを、わざわざ店で買うのか? 家の庭に、くりの木くらい、生えてるだろ?」
オオカミが、きょとんとして言う。
「庭なんて、あるわけないじゃん。マンション住まいだもの。都会の住宅事情を甘く見ないでよ。それより、これ、パックのくりに、してくれない?」

「おれに言うなよ。おれは、肉しか食わないんだ。くりのパックづめなんて、したことないぞ。そういうのは、人間の方がくわしいだろ」
「えー・・・。どうしよう。このトゲトゲを取ったら、パックのくりが出てくるのかな」

キリキリキリキリキリ・・・。
からっぽのおなかが、しめつけられるように痛む。体に力が入らない。
「もぉ歩けないよぉ・・・」

男の子のつぶやきは、弱々しく、木と木の間に消えていった。
リュックに入っていたおにぎりも、クッキーもチョコもキャンディーも、もうぜんぶ食べてしまった。
さいしょに、このリュックをしょった時には、「重いな。おにぎりが大きすぎるんだよ」なんて思ったのに、今は、軽くなったリュックがうらめしい。

男の子は、迷子だった。もう3日も前から、森の中をさまよっている。
(だからぼくは、こんなイベント、いやだって言ったのに。家でゲームでもしてりゃ、こんな目にあってないのにさ)

森の中のハイキングコースを歩いて、広場でお弁当を食べる。そんなイベントに、パパが勝手に申し込んでしまった。
(ぼくが、やせっぽちで、体力がないって?『子どもはもっと、太らなきゃだめだ。たっぷり食べて、しっかり運動だ!空気のおいしい森なら、ごはんもおいしいぞ』とか言っちゃって。大きなおせわだよ)
パパが、一人で行けばいい。
そう言ったのに、親子で参加するイベントだからと、ムリヤリ連れてこられたのだ。

はらが立ったから、ちょっと困らせてやろうと思った。こっそりコースをはずれて、広場に先回り。パパたちが着いたら、「やぁ、おそかったね」なんて、すずしいかおで言ってやろうと思ってたのに・・・。

 10 小鳥になったトト

「アディ、ぼくだよ」
トトによばれて、アディはわれにかえりました。
そこには白い小鳥がいました。
ちっともペンギンには見えません。
なのに、アディはそれがトトだと分かりました。

「トト!」
アディはトトをだきしめました。
なみだがあふれて、止まりません。
「ごめんね、トト! あたしのせいで」
「どうしてあやまるの、アディ?
ぼくは、今、神様の庭にいて、とても幸せなんだ。
ほら、見てよ。神様は、ぼくに、こんなにすてきなつばさをくれたんだよ。
ぼくがペンギンだったころ、ちっとも大きくならなかったのは、こんな風に、神様から、つばさをもらうためだったんだね。
今のぼくは、自由に、空を飛べるんだ! 最高だよ!」

「ちがうよ、トト! 飛ぶより、泳ぐほうが、ずっと、楽しいんだよ。
ペンギンでいるって、そりゃあ、すばらしいことなの!
それを教えたくて、どうしても、あんたをつれもどしたかったの。
ねえ、神様の庭なんか、にげだして、あたしと北の海に行こう!
海はすてきだよ! おいしいエサでいっぱいだし、氷の島でひなたぼっこすると、そりゃもう、気持ちがいいの。あたしたちはペンギンでいるのが、一番、幸せなんだよ!」

9 ペネロープ

「夢でも見ているのかしら」
スクアノタカラが光を放ち始めると、オーロラが、どんどん、低く、下りてきて、アディのまわりを、緑色の光で取り囲みました。

その中で、音もなくドレスをひらめかせるオーロラの姫君たち。
「3人? 10人? ちがう、もっともっといる」

アディは、こわくて、さけびそうになりました。すきとおった少女たちの目の、何という冷たさ!
「決して、動いても、声を出してもいけないよ」
アディは、モルテンの言葉を思い出し、けんめいに、こらえて、じっと、立っていました。
すると、ひそひそと話す、姫たちの声が聞こえました。

「きれいな宝石。私のむねをかざるペンダントにふさわしいわ」
「いえ、私のかみかざりにこそ、ちょうどいいわ」
どうやら、姫たちの間に、宝石をめぐる争いが始まっているようです。
アディは耳をそばだてました。

「でも、ここに持ち主がいるわよ。若いペンギンだわ」
「持ち主とは言えないわ。その子、死んでいるもの。ほら、ちっとも動かない」
「死んでいても、持ち主は持ち主よ。だまって取るのはどろぼうよ。父君がゆるさないわ」
「父君は、はるか、北の空。ここまでは、見えやしないわ」
「そうよ、そうよ! 宝石は私のもの!」
「いえ、私のよ!」

オーロラたちは、あらそって、スクアノタカラに手を出しました。
とたんに、
「ああ、いたい!」
と、ひとりがさけびました。その手が、石にくっついたまま、はなれなくなったのです。
「たすけて!」
姫は、かなしい声で、さけびましたが、ほかの姫たちは、あわてて、にげていきました。

8 星かげ

太陽は、一日ごとに、低くなっていきます。
ある日、とうとう、太陽は、地平にくっついたまま、横すべりして、その日を終え、次の日には、バラ色と金色の美しい帯を残して、地平線の下に、ぷちんと、消えました。
それから後は、もう、いつまで待っても、顔を出そうとはしませんでした。

アディが生まれて初めて出会う日没です。
でも、空は、まだまだ明るく、おだやか。
「星って、あれかしら」
アディは、深みをましていく空に、点々とともる、小さな光を見て考えます。
「赤いの、ないなあ・・・」

ペンギンの最後の一羽まですがたを消し、もう、残っているのはアディひとりです。
うすやみにしずむ雪の原。
さらさらと、風が流れ始めます。
アディは、首を縮めました。

「雪あらしが来るわ」
アディは、あらしで失くさないように、スクアノタカラを飲み込みました。
間もなく、ビュービューと、目の前が見えないくらいのふぶきになりました。
腹ばいになって、じっと、目を閉じているアディに、あらしは、ビシビシと打ち付け、痛いほどの寒さでしたが、そのうちに、何も感じなくなりました。

ただただ、眠くなりました。
どのくらい、眠ったのでしょう。

7 トウゾクカモメのじゅ文

モルテンは言いました。
「いいかい、空に星が現れたら、天のいただき近くに、とりわけ、明るい、赤い星をさがして、その場所を覚えておくんだよ。オーロラの姫君たちがダンスを始めたら、その星に向かって、初めのじゅ文を、こう、となえるんだ。
『モルテンの名にかけて』
それから、古代トウゾクカモメ語で
『ギャアギャア、ギャギャン、ンギャー!』」

「やだなあ、そんな変な声を出すの」
「やってみて!」
「グェーグェー、グェゲゲー、グエー!」
「それはペンギン語だろ! ちゃんと、トーカモ語、やって!」
モルテンは、アディに、何度も、練習させました。

「そうそう。そんな感じ。
うまくとなえると、星から赤い光が差して、スクアノタカラを同じ色にかがやかせる。
オーロラたちは、美しい宝石が好きだから、たまらずに、地上に下りてくるんだ。
そこを、がっちり、つかまえる!」
「わかった! それから?」
「つかまった姫は、放してくれるよう、たのむから、そこからが取り引きだ」
「取り引き?」

「ああ。弟を神様の庭から連れてきてくれって、たのむのさ。だけど、忘れちゃいけないよ、アディ、オーロラたちは、みな、自分勝手で、うそつきだってことを。
だから、姫が約束したからって、すぐにじゅ文を解いちゃだめだよ、名前を聞き出すまでは」
「わかった、名前を聞くのね」
アディがうなずくと、モルテンは、2つ目のじゅ文を教えました。

「これで、最初のじゅ文が解けるんだ。
『モルテンの名にかけて。
ンギャー! ギャンギャン! ギャアギャアギャア!』」
「さっきのが逆になっただけみたいね」
「注意して。びみょうにちがうよ」

6 スクアノタカラ

仲間が、どう、思っていようと、アディは構いません。じっと、モルテンを待っていました。
でも、なかなか、モルテンはもどってきません。
「だまされたんだよ、アディ。あんなやつのことはわすれた方がいいよ」
「そうだよ。それより、せっせと食べなくちゃ。夏は、いつまでも、続かないんだからね」
仲間たちは、そう、アディをたしなめました。

そうなのです。太陽は、地平を、一回りするたび、少しずつ、低くなっていきます。
それにつれて、光は、少しずつ、弱くなり、その分、風は、どんどん、冷たくなりました。
とうとう、ある日、ペンギンたちは、海岸からのぞむ遠い山々に、太陽が、ふっと、かくれるのを見ました。
雲は金色にかがやき、しばらくの間、山々は、美しいバラ色にそまりました。
それは若いペンギンたちが見る初めての夕暮れでした。
ペンギンたちは、そわそわ、なきだし、いつしか、歌になりました。

グェー グェー
夜が来る  夜が来る
お日様が おひっこしだ
北へ 北へ ひっこしていく
おいかけよう おいかけよう
あたたかい北の海へ!

この日から、ペンギンたちは、一羽、また一羽と、すがたを消しました。北へ旅立っていったのです。