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次の日の朝、ぼくはまたゆうびん受けにとんで行った。
「春休みなのに早起きねえ」とお母さんはあきれていた。
チラシは今日も入っていた。
またバラをけ散らしダッシュで店に向かう。

いきおいよくとびらを開けると、そこにはきのうとおなじ光景が・・・。
また犬がいた。
きのうのヤツとは少しちがう種類だ。
ラーメン無料②
きのうと同じ席に座り、右足ではしをつかみ、左足でレンゲを持って、すくったスープをふうふうと吹いている。
ラーメンの湯気で、毛が少しぺったりとしていた。

ぼうぜんとしているぼくにおじさんが気がついて、
「ああ、きのうのボク。悪いねえ、今日も二番目だよ」
と気のどくそうに言った。
ぼくが犬に目をやり、
「一番はあいつ?」
と聞くと、おじさんはうなずき、
「チラシ持ってきたしねえ」
と昨日と同じように答えた。
またもがっかりして店を出る時、犬がこちらを向いてニヤッと笑ったように見えた。

ラーメンを目の前にしながら、二日もチャンスをうばわれてしまった。しかも犬に。
今日こそ負けてなるものか!と走って乗り込んだ次の日も、犬がいた。
その次の日も犬がいた。くやしくてたまらなかった。

『ラーメン無料サービス 早いもの勝ち 一日一名さま』
ゆうびん受けに入っていたラーメン屋のチラシには、そう書いてあった。
ぼくはおもわずガッポーズをした。
駅前にできた新しいラーメン屋だ。気になってたんだ。
ラーメン無料①
ぼくはラーメンが大好きだ。ラーメンがキラいな子供なんてきっといないぞ。ぼくのまわりの3年の友だちの中にも絶対いないにちがいない。
しかし、大人の中にはいる。ぼくのお父さんだ。

お父さんはラーメンがキラいだ。
信じられないことだけど、それにはわけがある。
お父さんは鼻にアレルギーを持っている。
ラーメンを食べると必ず鼻水がいっぱい出て、鼻がつまってフガフガの鼻声になる。
それがどうしてダメなのかというと――

うちのお父さんは花を作っている。家の庭や玄関先で。
その花から、よい匂いのする花のスプレーを作っている。
だから鼻がつまると仕事ができない。
だからラーメンを食べない。
だからぼくも連れていってもらえない。
ゲームを買うためにためているおこづかいをラーメンで使ってしまうのはもったいないし。
もう一度チラシをよく見ると、「このチラシを持参すること」と書いてある。
「よし!」
まだ朝だ。朝からラーメンを食べる人はきっと少ない。いけるかもしれない。
ぼくはチラシを握りしめ、気合いをいれた。ゆうびん受けの側にあるお父さんの大切にしているバラをけ散らし、かけだした。

バ、バーン! ドーン!
ナラ山に着くと、体長10mのモゲラノドンがあばれている。
木をひっこぬき、山をくずしている。

「おい、モゲラ!」
ぼくが声をかけると、いきなり大きなツメをふりかざしてきた。
バーン!
木がまっぷたつになって、ふきとんだ。その時だ。
「ハチくーん、たすけて!」
たおれてきた木に、クマさんが足をはさまれた。
えーい!
ぼくは木をうごかした。

「ハチくん、あぶない!」
クマさんの声にふり向くと、モゲラがぼくをふみつぶそうとしてきた。
ぼくはモゲラの大きな足をうけとめた。
でも、ウエアのせいで、力がでない。
お、重い・・・。
このままではつぶされてしまう。

「ハチくん、そんなところに立っていないで中にはいりたまえ」
「・・・」
くやしさと悲しさで、ぼくのからだはふるえていた。

「どうしたんだ、ハチくん」
「ぼく、みんなにめいわくをかけてたんです・・・」
ぼくはがっくりとうなだれた。
「そんなに落ち込むんじゃない。正義の味方、戦隊ヒーローが台なしだぞ」
「もうかいじゅうをやっつけられなくてもいい。ぼく、弱くなりたい」
「国からたくさんのお金をもらって、君らを作ったんだ。かいじゅうがあらわわれた時に変身してやっつける。それがハチくんの使命なんだよ」

「いやだ! 弱くなるよう変身させてください、博士」
「困ったなあ。そりゃむりだ」
博士は頭をかいた。

どうして? ぼくは思わずかべをたたいた。
ボッコ~ン!
かべにあなが開いた。
「こんなの、いやだー」
バーン!
軽くさわっただけで、ドアがはずれた。
「このばか力をなんとかしてよー」
「ハチくん、そんなことをいうんじゃないって」
「だって、だって~」
「そうだ! ハチくん、ちょっとまっていなさい」

お、あれが、セミラーか。ぼくの友だちが平和にくらしているんだぞ。ゆるさん!
ジャンプしながら、大きく変身!
そして、うしろからセミラーの羽にチョップ!

「ガ、ガ、ガ、グォー!」
セミラーのさけび声とともに、羽がとれた。
こうてつパンチを食らえ!
木をなぎたおしながら、セミラーはひっくりかえった。
足をばたつかせているところをもちあげ、うちゅうキック!
「月で反省してろ~!」

どうなっているんだ、日本は、この地球は・・・。
かんきょうおせんといじょう気象のせいで、虫たちがチョー巨大化している。そして日本のあちこちにあらわれて、暴れまわっているのだ。
今もぼくは、カマキリかいじゅうカマノドンをはげしい戦いの末に退治したばかりだ。

ぼくは「8レンジャー」のハチ。天才科学者の飯田橋博士が、日本と地球を守るため作った戦隊ロボットのメンバーだ。
本当なら8人いるんだけど、こしょう続きで今のところ、ぼく一人が働いている。

得意技は、こうてつパンチとうちゅうキック。どんなぶあついかべも、こうてつパンチであながあく。
うちゅうキックで、かいじゅうを軽く月までぶっ飛ばす。
どんなやつがあられようと、このぼくがいるかぎり、日本の、そして地球の平和をみだすことは不可能だ!
というと、かっこいいすがたを想像してしまうが、ぼくって、野球ぼうをかぶり、ランドセルをせおった小学生型のロボットなのだ。

でもね、人間と同じように、うれしいときは笑うし、悲しいときは落ち込むんだ。
本当は、もうちょっとかっこよく作ってほしかったんだけどなあ・・・。
ぼくが変身すると体長15mになる。大きくなっても小学生のかっこうのままだから、たいていの敵は油断するみたい。飯田橋博士はそこまで考えて作ったというけれど、本当かな?

月夜のネコ4チャリンと音がしました。
お面屋の手の中で、お月さまから外したはずのお面が銀貨に変わっていました。
「外したのは何のお面だったの? 普通のお月さまにしか見えなかったけど」
「普通のお月さまなんてないよ。何かに見えるはずだ。あんたは何に見えたんだい。今晩のお月さま」
「うーん、そうねえ・・・」
トモちゃんは今晩ここに来るまでに見たお月さまを思い出して、そして言いました。

「ひよこの頭みたいだって思ったわ」
「じゃあ、そうだったんだろうさ」
「意味わかんないわ」
「お月さまの顔は見る人によって変わるのさ。ここにあるお面はお月さまがこんな風に見えるって思った、いろんな国のいろんな人の想像力の姿なんだ」
トモちゃんは並んでいるお面に目をやりました。

月夜のネコ3トモちゃんはお客が来るまで、お金のかんじょうの手伝いをしながら待っていました。

そのうちどのくらい時間がたったのか、さっぱりわからなくなっていました。長いような、まだ少ししかたっていないような。
そしてついに――
「来た」
お面屋が言いました。空を見上げています。
「えっ、空? どこ?」
お面屋が指差しました。そこには――
「お月さまだよ」
と言ったトモちゃんでしたが、次の瞬間驚いて「ぎゃっ」と声をあげてしまいました。

ずっと空に浮かんでいたお月さまが、突然ゆらゆらとゆれたかと思うと、そのままゆっくりと落ちてきたのです。

月夜のネコ2-1目の前にくじ引き屋さんが見えた時、
「あっ!」
トモちゃんはおもわず声をあげてしまいました。
くじ引きのお店の向こう側、そこはもう屋台はなく、林になっているのですが、茶色いものがすっと横切ったのです。
ネコのように見えました。
しかも、あの姿は数日前に死んでしまった飼いネコのチャップにそっくりでした。

トモちゃんは迷わず、道をそれ、林へと向かいました。
「あれはきっとチャップの幽霊だわ。お祭りに連れてきたこともあるし、喜んでたから、きっと今日だけもどってきたのよ」
小さな声でそうささやきながら、どんどん進んでいきました。
神社の林は広く深く、お祭りの明かりも声もだんだんと薄くなっていきます。

「確かにこっちの方へ走っていったんだけどなあ」
ネコの姿は見えません。
少し不安になって振り返ると、屋台の明かりは随分小さくなっていました。
前方に目を戻すと、真っ暗な林が広がっています。
その奥の方に―――ポツンと明かりが見えます。
黒い木の影の合間に真っ白な光があるのです。トモちゃんは目を凝らしました。
「何だろう」

祭りになると、夜が明るくなる。と、トモちゃんは思っていました。
いつもは真っ暗な神社の林が、その日だけは遠くから見ても空の色が変わるのです。
神社へ行く道も、うちの近所さえも、祭りへと向かう道はすべて、空気が黒から水色になるような気がしていました。月の明かりも加わっていたでしょう。今日はきれいな満月です。

月夜のネコ1-1今夜の祭りもにぎやかでした。いつものように、たくさんの屋台が並んでいて、大人も子供もみんな笑っていました。
金魚すくい、りんごあめ、綿菓子、花火のお店もあります。
今晩、トモちゃんはお姉ちゃんといっしょでした。
お父さんお母さんは仕事で早く帰れないので、二人で行くようにと、おこづかいを置いていってくれていました。お姉ちゃんは六年生、トモちゃんは二年生です。