・・・ウォー、タ・・・。
遠くで何かきこえた気がした。きこえるかきこえないかの、すれすれでそれは耳に入る。
本当にかすかに。空耳だろうか?
しばらくするとまたきこえる。
・・・おおー、・・・い・・・お。
少しずつ大きくなっていて、ぼくは耳をかたむける。
なぜだかその音は、とてもなつかしい感じがする。忘れてはいけなかったもののように思う。
それが、人の声らしいとわかった瞬間、はっきりとこんな声がきこえた。
「おーい、たけちゃん! やっぱりここだと思ったわ!」
視線を動かすと、黒いスニーカーが見えた。
見上げると、目の前にべにちゃんが立っている。
とてもびっくりした。すごく驚いた。
ぼくは思わず、ピョコンとバッタが飛び跳ねるように立ち上がっていた。
「ど、どうしたの、べにちゃん!」
「どうしたじゃない! それはこっちのセリフよ! みんな大騒ぎしているわよ、いったい今までなにをしていたの!?」
「今まで・・・、あ、あれ、もう夜なの?なんで、、」


ぼくは、ぼんやりしてあてなく朝の町中をうろうろとさまよった。
――放課後。
部屋の窓は真夜中の群青色(ぐんじょういろ)に染まっている。外の木立がゆれているので、群青色はうすくなったりこくなったりをくり返していた。カーテンは両端に結われている。
「伊集院くんてすてきよね。・・・なんというか大人っぽくて落ち着いていて、貫禄(かんろく)があるわ。そうしたものってやっぱり家柄や育ちの良さが大切なのかも」
ネクタイというのは彼のあだ名である。
月がてっぺんまで登り、世界の全てを湖の底に沈めてしまった頃、イチョウは安らかな寝息(ねいき)を立てていました。




