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2 チビのトト

アディたちの生まれたペンギン村には、たくさんの巣があります。
「ねえ、見てごらんよ、トト!」
アディが、親ペンギンの下から、ひょっこり、顔を出して、言いました。

ペンギンの巣は、みな、ごろごろの小石でできています。
ペンギンたちは、その上に、立ったり、はらばいになったりして、ヒナたちを守っていました。
アディは、となりの巣の親ペンギンの足もとから、灰色の丸い頭が、ふたつ、のぞいているのを見つけました。
小さい口ばしが、ヒヨヒヨ、動いています。

「あはは! 石ころかと思った! へんてこな丸頭!」
「悪いよ、アディ。そんなこと、言ったら」
トトは、どぎまぎして、アディをたしなめました。

「どうして!? ほんとのこと、言っただけよ! ほんとにへんてこなんだもん!」
平気なアディは、ますます、大声。
となりのペンギン親子が、ぎろっと、アディをにらみました。

「おまえたちだって、へんてこじゃんか! もこもこ、丸頭だぞ!」
向こうのヒナが言い返しました。
「あたしたちは、もこもこ、丸頭じゃないよ! あんたたちがもこもこよ!」
すかさず、アディが言い返します。

「アディ、やめなさい」
母ペンギンが止めました。
「子供は、みんな、みっともない、もこもこなのよ。背がのびて、スマートなえんび服になるまでには、まだまだ、いっぱい、食べなくちゃならないの」

「そうだよ、アディ。ぼくたちだって、同じなんだから。悪く言っちゃいけないよ」
トトも言います。
「同じじゃないよ! あたしは、あんな子たちとは、ぜったい、ちがうの! 何よ、あんたまで!」
アディがトトをつついたので、
「こら、アディ!」
とうとう、母ペンギンのくちばしが、コツンと、飛んできました。

1 アディ

アディはアデリーペンギンの子です。生まれは南極。とてもさむい所。
でも、親ペンギンの羽毛の中は、とてもあたたか。南極の冷たい風も平気です。
となりにいる、ふわふわ、うぶ毛のヒナは、弟のトト。
少しだけ、アディの方が、はやく、たまごからかえりました。
だから、アディはおねえさんです。

グエッゲゲゲゲー
グエッゲー

アディたちを守っていた父ペンギンが、母ペンギンとあいさつしています。
母ペンギンは、遠い海にでかけて、エサをたんと食べて、はるばる、帰ってきたところでした。

6 リンゴ王妃の語ったこと

町のリンゴ売りのもとに、すっかりやつれたリンゴ王妃がもどって来たのは、何日かたってからでした。
「いったい、今まで、どこでどうしていたのだね!?」
父親がたずねると、リンゴ王妃は、わっと泣き出して、こんな話をしたのでした。

「大ガラスにさらわれた私は、湖を見下ろす丘の上に下ろされたの。そこで待っていたのは、あのうらない女だったわ。女は、水晶玉をかかえて、私を見て意地悪く笑ったの。
『おろかだねえ。おまえは知らなかったのかい、この石こそが、城を湖の底から持ち上げていたのだということを。おまえがそれをはずしてしまったから、ほら、見るがいい、城がしずんで行くよ』
本当に、私はそこから、私のせいでお城が湖にしずんで行く様をつぶさに見なければならなかったわ。王様も、お城の人々も、何もかも、道連れにして。
私は泣いて、水晶玉を返してください、お城を元通りにしてくださいとたのんだわ。でも、女は、きびしい顔で言ったの。

5 お城の最後

それから、また、何年もたちました。でも、湖の王には、やはり世つぎになる子供は生まれませんでした。
「いったい、いつまで待てばよいのか!」
身勝手なディドーは、気のいいリンゴ王妃をなじります。リンゴ王妃は、悲しくてなりません。

実は、リンゴ王妃には秘密がありました。
これまで、何度身ごもっても、生まれるのはいつも魚の形をした子供たちだったのです。
おどろいたさんばたちは、王には本当のことは知らせずに、赤ん坊は死んだことにして、そっと湖に返していました。
魚の子たちは、うれしそうに湖の中に消えて行ったのでした。

「このままでは、自分は、きっとお城を追い出され、王様は新しい王妃をむかえるわ」
リンゴ王妃は、ある夜、だれにもないしょでよく当たると評判の町のうらない師を訪ねました。
うらない師は、とっくに、リンゴ王妃のなやみを見ぬいていました。
「お気の毒な王妃様。でも、ご安心ください。あなた様のおなやみをすぐにも解決してさし上げますよ」
「本当ですか!?」
何とも心強い言葉です。
リンゴ王妃は、黒ずきんの下の女の顔を食い入るように見つめました。

うらない師は言いました。
「あなた様が魚の子しか生まないのは、ディドー王の先の王妃、リムニー様ののろいのせいでございますよ。実は、リムニー様は人間ではなく、おそろしい魔力を持つ妖精だったのでございます」

リンゴ王妃は、真っ青になりました。
「妖精ののろいですって!? いったい、どうしたらそんなのろいを解くことができるの?」
うらない師はにんまりしました。
「簡単でございますよ。のろいの力は、お城の天守にある水晶玉から発せられております。ですから水晶玉を取り除いてしまえば、あなたのお体はもとの健康を取りもどし、魚ではない、元気な人間の赤ちゃんをお生みになることでしょう。
ただし、王妃様、このことは、だれにもないしょでございますよ。あなた、おひとりの力でなさらなければなりません」
「でも・・・」

4 ガラスのひつぎ

「どうしたらリンゴ売りとの約束を果たせるだろう?」
どんなことをしてでも、リンゴ売りの娘が・・・、いえ、リンゴ売りの娘のうでまくらがほしかったのです。それほど、ディドーは、寒かったのでした。

ディドーは知恵をしぼりました。そして、町に、よく当たると評判のうらない師がいることを思い出しました。
王は、もう一度、こっそり、町へ出かけて行きました。
そして、町はずれのわびしい家に入って行きました。
そこには、黒いずきんを目深にかぶった、女のうらない師が座っていました。
うらない師は、王が何も言わないうちから、もう、すでに、王の望みを知っていて、クツクツ、笑って、言いました。

「王様の願いは、私めの申し上げる通りにすれば、すぐにもかないますよ。ただし、ずいぶんと、ちょうだいいたしますが」
「金はいくらかかっても構わない。ただ、あれが、あまり、苦しまないようにだけは・・・」
ディドーは、あとの言葉を飲みこみました。さすがに、自分のしようとしていることに、おそれをなしたのです。

「だいじょうぶですとも。王妃様は、これっぽっちも、お苦しみにはなりませんよ」
うらない師は、にこやかに、7日後の真夜中、もう一度、訪ねて来るようにと言いました。
「その時には、黒いほろでおおった荷馬車で、くれぐれもおひとりで」

3 水のお城

「上出来です」
リムニーは、水晶玉を持ち帰ったディドーに、満足そうにほほえんで、言いました。
「それを高く放りなさい」
言われるままに、王子は、湖に向かって、水晶玉を、力いっぱい、放り投げました。

水晶玉が、ボチャンと、落ちると、はげしいうずがまき起こり、水面が大きくふくれ上がって、水が、どんどん、あふれ出しました。
森を飲みこみ、湖は何十倍にも広がっていきます。
そして、その水底から、たとえようもなく立派なお城が立ち上がったではありませんか!

白い城壁。いくつもの塔。美しい天守。
その天守のてっぺんにかがやいていたのは、あの水晶玉!
「これから先、あなたをたおせる者は、だれ一人、おりません。天守にあの水晶玉があるかぎり」
リムニーは、あっけにとられている王子を、お城の中へとまねき入れました。
どの部屋も、どの蔵も、金銀財宝でいっぱいです!

2 森の魔女

森の魔女アルセイダと湖の精リムニー。ふたりは、長い間、にくみ合い、争って来ました。
なぜかって・・・?
それは長い長い別のお話なので、いつか、また。
ともあれ、リムニーはたびたび湖をあふれさせて、アルセイダを森ごと、しずめてしまおうと試みてきました。
でも、いつも、失敗に終わりました。
それというのも、アルセイダには秘密の武器があったからです。

森の魔女たちにずっと昔から伝わる水晶玉。
それを持っている者には、どんな災いの力もおよびません。
リムニーは、それに、ふれることすら、できなかったのです。

「何とか、アルセイダから、あのいまいましい石をうばい取る方法はないものか」
しゅうねん深く、考え続けていたところへ、のこのこやって来たのが、国を追われて行き場のない、さすらいの王子ディドーだったのです。

「しかし、王国を建てるためとはいえ、こんな痛い目に合うとはな・・・」
王子は血のしたたる足の痛みをこらえて、湖の精に言われた通りに、くり毛の馬を森の奥へと進めます。
日の暮れるころ、年ふりてこけむした大木の下に、木の皮と枝でふいた魔女の家がやっと見えたとたん、王子は気が遠のいて、どっさり、地面に落ちました。

1 湖の精

むかし、おじいさんは覚えていないが、ひいおじいさんは覚えているほどのむかし、ある国に、3人の王子がいました。
いちばん上の王子は、強く、かしこく、国を治めるのにふさわしい人がらでした。
3番目の王子は、心が優しく、思いやりがあり、人々に、たいそう、したわれていました。
兄と弟に比べて、中の王子は、男神と見まがうほど、ハンサムではありましたが、心の冷たい、ひねくれ者でした。
王子にふさわしい勉強や武芸は大きらい。悪い仲間と町にくり出しては、娘たちに悪さをしたり、お酒を飲んであばれたり。町の人々に、ひどく、いやがられていました。

父親の王様は、
「おまえはろくな者にはならぬ。兄や、弟をみならって、心を入れかえよ」
と、いつも、しかりつけていました。
だが、ある時、王子が、美しいくり毛の馬欲しさに、家来をおどして、取り上げてしまったと知って、とうとう、かんかんにおこってしまいました。

「おまえのような者を、わしの王国においておくわけにはいかぬ。そのくり毛を連れて、さっさと、出ていけ!」
中の王子は、馬を、一頭、与えられただけで、国を追い出されてしまいました。
さすがの王子も、これには、へこたれました。

てんてん坊は、オニをおしのけて、のぞき窓から、中の娘に声をかけました。
「小糸ちゃん、私はてんてん坊という坊主だよ。小糸ちゃんは、どうして、こんなところにいるんだね」
やさしい声に、娘は、はっと、顔を上げました。

「わからないの。おっかちゃんと、さよならしたの。そしたら、ここにいたの。ここは暗くて、何にも見えないの。それに、いつも、こわいオニの声がする。あたい、かえりたい。おっかちゃんに会いたいよお」
「おっかちゃんはここだどぉ!」
と、さけぶオニの大きな口を、てんてん坊は、あわてて、両手でふさぎましたが、手おくれでした。
娘は、また、わんわん、泣き出しました。

「だめではないか、オニどん」
たしなめるてんてん坊の胸ぐらを、オニは、むんずとつかみました。
「なじょしたらええ? どいぐにしたら、娘を助けられる? 坊主だべ!? 考えろ!」
「ううむ・・・」
「ありがてえ経をとなえるとか、何か、すべあるべ!?」
「経か・・・。それより、いっそ、娘さんにたずねてみてはどうだろう? 何か、いい方法が見つかるかもしれない」
「んだら、すぐに聞け!」
オニは、てんてん坊を、のぞき窓におしつけました。

あたりは、とっぷりと、暗くなりました。
こずえの間に、ちらちらと、星がまたたいています。
大きな月は、林に見えかくれしながら、てんてん坊の行く先を照らします。
満開を過ぎた桜が、はらはらと、花びらを散らし、道は、まるで、白いじゅうたんをしいたようです。

「なんとまあ、天女の通う道のようだ!」
てんてん坊は、思わず知らず、流行り歌を口ずさんでいました。
ところが、とうげも間近というところで、急に、生ぐさい、冷たい風が吹いてきました。
そこは、両側を、高い岩かべにはさまれた、せまい切通しです。
そのがけの下、黒ぐろとしたやみの中に、ちらちらと、たき火が燃えていました。
だれか、火の前に、がかがみこんでいます。