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山おくのおんせんりょかんに、ぼくとパパ、二人で、とまりにきた。
「今日とまるところは、古~い、りょかんでな。おばけが出るらしいぞ」
ゴツゴツした石のかいだんを、やっと上りおわって、平らな土の道にでた時、パパがうれしそうに言った。

「え~、おばけ、こわいよ。やだよう」
びっしょりかいてた汗が、いっぺんにつめたくなって、体がブルッとふるえた。

「パパ、ぼくが、おばけきらいなのしってるくせに。どうして、おばけのいるりょかんなんかに、つれてくるの!」
「はっはっは。だいじょうぶ。そういううわさが、あるってだけさ。おばけなんて、ほんとはいないんだから」

「・・・いないの?」
「ああ、いないよ。もしいても、パパがおばけなんて、やっつけてやるさ。ほら、見えてきた。あれが、りょかんだよ」
パパのゆびさした方に、テレビで、それも、じだいげきでしか見たことのない、りょかんがあった。

「ビバ・ネバル! ビバ・ネバル!」
あちこちの木の上から大がっしょうがおこりはじめたのを、ぼくだけがとおくにいるかのようにぼんやりと聞いていた。
モックをさがしたけれど、そのすがたはどこにもなかった。
ミノムシとイモムシがかけよってきた。

「昼間はひどいこといってごめんね。あなたのねばりぐあいってば、さいこうだったわ」
「きみがいなかったら、ぼくたち今ごろだめだったよ。ほら、あの子ももうだいじょうだ」

チョウがきれいな羽をゆっくりとうごかし始めていた。
ぼくを見るとはずかしそうにもじもじとしてから、声にならない声で「ありがとう」といってくれた。

「みんなぶじかい?」
ぼくはみんなの顔を見まわした。
「あ、あそこに!」
アリのさした方を見ると、さっきよりいきおいをました水の中に、あのきれいな羽のチョウがいた。
かれ葉の間にうもれて、うごけなくなっている。

「今、行くよ!」
ぼくはひらりと木からとびおりた。
水面すれすれのところでチョウをつかもうとした。
水をすいこんだ羽がおもくてひっぱりあげることができない。
何度トライしてもだめで、そのまま木の上にもどるしかなかった。

どれだけ時間がすぎたんだろう。
雨がふり始め、どんどん強くなっていった。
冷たくて、どしゃどしゃ音がする。かれ葉の上に水がたまっていく。

からだが半分ほど水につかってしまったところで、ぼくはようやく大変なことになりそうだと気がついた。
けさテレビでいっていた雨をかんけいないとおもっていたが、とんでもない。
ぼくはどんぐりぼうしの中に入り、ながされるようにすすんでいった。ぼうしの船にも雨がたまっていく。おもみで少しずつしずんでいるようだ。

だけど、ぼくの頭はべつのことでいっぱいだった。
(ぼくから近づくといやがられる。友だちだとおもったら、糸をつかわれただけだった。これからどうしたらいいんだろう。でももうどうでもいいかなあ)

日がくれた。ぼくはねむっていた。ゆめの中でぼくはネバネバダンスをおどっていた。くるくる回るごとに糸がまわりの人にからみついていく。
ほのちゃんもいる。ほのちゃんのお父さんお母さんもいる。イモムシやアリたちもいる。みんな大声で歌いながら、ぼくの糸をドレスのようにからだにまきつけていた。

ネバ ビバ ネバル
ビバ ネバ ネバル
ネバ ビバ ネバル
ビバ ネバ ネバル!

だれかがさけぶ。
「ビバ・ネバル、きみのねばりはさいこうさ!」
ああ、ぼく生まれてきてよかったなあ。
そうおもったところで、とつぜんからだががくっとゆれた。ぼくは目をさました。

家の外に出て、
「さあ、おもいっきりねばるぞ~」
とはりきってみたものの、自分だけではねばれないことに気がついた。
強くふく風がからだにあたる。かれ葉をふむ音が大きくひびく。さみしい。
そうだ、だれかといっしょにねばろう!
ようし、だれか見つけるぞ。

そう決めると、ぼくは森の中を歩き始めた。
一匹の丸い虫が地面をはっていた。さっきテレビで見たな、これはイモムシだ。ぼくはかれのまわりをぐるぐるまわった。

「ねえ、ぼくといっしょにねばろうよ!」
「なんだ、このネバネバは。まとわりつかないでおくれよ。ぼくはまださなぎになる気はないぞ」
イモムシはころがりながら行ってしまった。

次に会ったアリはくりくりした目がかわいかったけれど、
「あり? アリのじゃまをするなんてあり?」
と、とお回りされてしまった。楽しそうだからぜひ友だちになりたかったのに。

地面から近い木のみきにミノムシがいた。ゆらゆら気もちよさそうにゆれていたのに、ぼくが近づくとおもいっきりからだをゆすってはなれようとした。
「私のよそゆきドレスになにしてくれてるの。あまりしつこいときらわれるわよ」
といって、ぼくの糸がついたミノの部分をベリッとはがしてしまった。

ガーン

ねばりたいだけなのに、いやがられてしまうのはなぜだ。どうせなら、だれかによろこばれるねばり方がしたい。でも自分もだれかもうれしいねばり方とはどういうものだろう?

「世界一のびーる納豆」として新発売されたばかりのぼくたちは、ほのちゃんの家に来て3日目になる。
お父さんお母さん、そして小学校で一ばん小さいほのちゃんの3人かぞくだ。

たべられるんだからそんなこと知らなくてもいいんだけどね。
でも納豆ってのは、どんな人にまぜてもらうのか気になるものなんだ。
外がにぎやかになった。(朝だな)とおもっていると、ぼくたちは冷ぞうこから出された。

「いよいよだ」
ぼくはわくわくした。ふたがあいて、ぼくたちは入れものごとほのちゃんの前におかれた。
となりにはもも色のおちゃわん。その中にはほかほかの白いごはん。おいしそう。
なのに、ほのちゃんはテレビばかり見ている。

ルルルーという音楽といっしょに、「森に住む虫たち」が次々と紹介されていく。
ついでに、きげんがわるいことを「虫のいどころがわるい」というってことも教えてくれた。
(いろんな虫があるんだなあ)

ザッ、ザッ。
ぼうしをかぶった、ショウタとスズが、ちかくの、ロッコウ山を、あるいています。
まえをあるく、お母さんのリュックサックには、お弁当とすいとうも、はいっています。

「あ、トリっ!」
ショウタと、手をつないだスズが、木をみあげて、さけびました。
「あれは、ウグイスさんね。ホーホケキョ、ってなく、おトリさんだね」

「あ、チョウ!」
「チョウチョさんに、にてるけど、あれは、ガ、かな。春になって、虫さんもたくさんね」
「川!」
「すわって、手をつけてみようか。すべらないように、ふたりとも、気をつけてね」
ちゃぷんっ。
「つめたい、つめたい!」

「そうだね。雨がふると、山のうえから、お水がながれてくるんだよ。スズが、家でのむお水は、ロッコウ山から、やってくるんだよ」
「へーっ! すごーいっ!」

「えーっ! 遊園地に、いけないのっ?」
「お父さん、お仕事に、なっちゃってね」

ショウタは、あと3日で、小学1年生。
今日は、妹のスズもつれて、かぞく4人で、遊園地にいく日でした。
「お父さんはね、ショウタとスズのために、お仕事を、がんばってるんだよ」
ママがおはしで、ショウタのおわんに、朝ごはんのシャケを、のせてくれました。
「・・・」

今日は、よく晴れた、きもちのいい朝でした。ショウタは、ざんねんで、たまりません。
「お母さんと、3人で、あそびましょうね」
ショウタの、だいすきな、シャケとたまご焼きは、まったくのどを、とおりません。
すると、となりにすわったスズが、フォークをにぎって、さけびました。

それから1か月がたちました。じろうが、じいちゃんとポチのさんぽにいこうとしたときです。
「わわわわん」
「わ、びっくりした。ポチ、どうしたの?」
むこうから小さな犬が走ってきました。

「トム? トムだね。またきたの?」
トムは、しっぽをぶんぶんふってやってきました。

「トム、ひさしぶりだね。あれ、またてがみをもってるんだね」
じろうは、トムのくびわにむすんであるてがみをとりました。
「じいちゃん、よんで」
「おや、いつかの子犬じゃないか。どれどれ」

『トムをじんじゃにつれていってくれたかたへ。
いつぞやは、どうもありがとうございました。おかげさまで、わたくしの病気もすっかりなおりました。お礼をトムのリュックにいれておきました。
どうぞ、おうけとりください』