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<その1>
チャン! チャン! チャン! チャン!
ふりつづいた雨で、ぬかるんだバスていで音がします。
チャン! チャン! チャン! チャン!
これはチャン小熊ねずみがボールをつく音です。
チャン小熊ねずみがバス停でチャン小熊ねずみは小熊のような顔をした、それはそれは体も気も小さな子ねずみでした。
チャン小熊ねずみは気が小さいのですぐに不安になります。
不安になると、気もちをおちつかせるために白いボールを、チャン! チャン! チャン! チャン! とつくことから、チャン小熊ねずみとよばれていました。

つゆ時のくもり空は、いつ雨がふってくるか分からないくらいにどんよりとしています。
チャン小熊ねずみは、スズランびょういんに入いんしたおばあちゃんのお見まいに行くために、バスをまっていました。(次のページに続く

第7話 行ってきまーすっ!

そうしてしばらく経ちました。
今日はもえちゃんの新しい学校のスタートの日です。
「もえちゃん。にっこり、だよ」
ナミダくんが言いました。
「大丈夫だよ。ボクがいるよ。もえちゃん」
「うん」
うなずいたもえちゃんに、あら。ママがびっくりした顔をしています。

「まあ、もえちゃんにもいたのね。ナミダくん」
「うん。そうだよ。ママにもいるんだよね、ナミダくん」
「もちろんよ。みんなみんな、いるのよ」
ママはウインクしました。

「行ってらっしゃい、もえちゃん。」
「う、うん」
もえちゃんはうなずきます。
それからナミダくんの手をつないで、
「行ってきまーす」
と、言ったのでした。
(おわり)

第6話 ママのナミダくん

暗い暗い道を、もえちゃんはナミダくんの手を引いて歩きました。
遠くに見えるあかりを目指して歩くと、ゆうちゃんとりんちゃんはパジャマ姿で立っています。
「ゆうちゃん、りんちゃんっ!」
もえちゃんはかけよります。

「ごめんね! あたし・・・おひっこしするのっ!  でもね、それでもやっぱり・・・2人とは友だちでいたいの。ゆうちゃんの描くイラストがだいすき。りんちゃんの貸してくれた本、すごく好き。2人が好きだから。だから・・・あのね、文通してくれる?」
「文通?」
「お手紙こうかん・・・。パパがきっと、楽しいよって言ってたの」
ゆうちゃんがにっこりわらいました。
「うんっ。だってあたしたち、はなれてもずっとお友だちだもんね!」

夜です。
もえちゃんはナミダくんに付いてきてもらって、トイレにいました。

「・・・・・・そうよね、ナミダくん。でもね・・・もえちゃんのことを考えると、かわいそうで・・・」
ママの声が聞こえてきます。

・・・え。ナミダくん?
もえちゃんはびっくりしました。どういうことなんでしょうか。だって、ナミダくんはここにいるのに。

「あのね、もえちゃん。ナミダくんはたくさんいるんだよ。どんな人にもみんないるんだよ。あれはきっと・・・ママさんのナミダくんなんだね。みんな泣くのは大切だからね」
「・・・大人も泣くんだあ」
もえちゃんはびっくりしました。

「そうだよ。ナミダはみんなの味方だからね」
ナミダくんは笑います。
「たくさん泣くと、その分やさしくなれるんだよ」

第5話 応援するよ

「どうしてキミは、泣いていたの?」
「あのね・・・パパとママがね、引っ越しするって言うの。でもね、もえね・・・したくないの。お友だちとお別れしたくないの・・・」
もえちゃんのひとみからまた、新しいなみだがあふれてきました。

「そうなんだね。それはかなしいね」
ナミダくんはうなずきます。
「でもね、もえちゃん。たとえ別れちゃっても、お友だちはずっとお友だちなんだよ」
「え!?」
もえちゃんは目を開きました。
「どういうことぉ?」
「大好きって気持ちは、はなれちゃってもなくならないんだと思うんだ。それにね。向こうでも新しいだれかと仲良くなることだってあるよ?」
もえちゃんはうつむきます。内気なもえちゃんは、お友だちを作るのが苦手でした。
ゆうちゃんとりんちゃんと仲良くなるのだって、向こうから声をかけてくれたからなれたんです。

「・・・新しいお友だち、いらないもん」
「そんなこと言わないで。もえちゃんはすてきな女の子だもん。これからいっぱいしあわせが待ってるよ。ねっ。2人に会わせてあげようか」

え!?
もえちゃんはびっくりしました。
「そんなこと、できるの?」
「うん」
ナミダくんはうなずきます。
「夢の中で・・・。2人にお話ししておいでよ。ボク、応援するよ。もえちゃん」

第4話 出会い

とろん。
辺りがゆれて、次の瞬間・・・そこにはとってもきれいなブルーのしずくの男の子が立っていました。しずくの男の子の体はすきとおっていて、まるでみずうみの底の様にゆらゆらゆれて見えました。大きさは、もえちゃんのこしぐらいでしょうか。
プルプルゆれています。

「・・・あ、あなた、だぁれ? マ、ママぁ・・・っ!」
あわわ。もえちゃんはあんまりびっくりして、声が出ません。何これ⁉︎  夢を見ているのかなあ。

「こわがらないでりボク、ナミダくん」
しずくの男の子はにっこり笑いました。
「だれかがかなしい時、泣いている時にあらわれるようせいなの。ボクね、今修行中なの」
「じゃあこれ、夢じゃないの?」
「うん」
ナミダくんはにっこり笑いました。

「これからしばらく、ボクはキミのそばにいるからね。それが修行だから」
修行?
もえちゃんは首を傾げます。
「修行ってなあに?」

「ボクたちナミダのようせいはね、一人前になるために、だれかをにっこりしあわせにしなきゃいけないの。ボクはキミをえがおにしたい。かなしいお顔はいやだな。ボクはみんなにわらってほしい。えがおって、すてきだよね。ボク、だいすき」
ナミダくんはそう言って、にっこりとわらいました。

第3話  もえちゃんのなみだ

ギュッ。
もえちゃんは泣きながら、小さいときからの宝もののふわふわのテディベアを抱きしめました。
このテディベアは、もえちゃんの一番の宝ものです。
1年生になった時に、大好きなおじいちゃんが買ってくれたんです。
クマのぬいぐるみ
泣き虫なもえちゃんはこのテディベアくんが一緒じゃないと、今でも夜ひとりで眠れないんです。だって・・・夜って暗いじゃないですか。オバケさんがうようよいるような気がして、夜中にトイレにも行けないんです。
それで3年生の今でも、もえちゃんはまだトイレの時にはこっそりと夜になるとママを起こしていました。

もちろん、これはゆうちゃんとりんちゃんにもひみつです。ゆうちゃんとりんちゃんは、ふたごです。初めてできたお友だちなんです。

もしこんなことがバレちゃったら、笑われちゃうって思うんです。3年生は、大きいんです。お姉ちゃんなんです。
でも今、もえちゃんはお姉ちゃんなんかじゃないって思うんです。

3年生は子どもで、それでちょっとだけ大人なんです。ちっちゃな子どもなんかじゃないんです。
パパもママも、だあれもあたしのこと分かってくれないんだあ。
なみだがたくさんたくさんあふれてきます。
ヒッヒッ。
泣きすぎて、だんだんと苦しくなってきました。ティッシュで鼻をぐしゅぐしゅした時でした。

「・・・かなしいの?」
不意に部屋のどこからか、やわらかい、かわいい子どもの声が聞こえてきました。それはまだ幼い男の子の声でした。

「だ・・・だぁれ?」
鼻をぐしゅんとすすって、もえちゃんはあわててテディベアから顔を上げました。

「だっ、だれかいるの?」
「泣いているんだね」
やさしい声が聞こえてきました。声といっしょに、目の前がゆがみました。

第2話 そんなのないよっ!

「おひっこし?」
もえちゃんはあんまりびっくりしちゃって、頭の中が真っ白です。

これはもしかして、何かのじょうだんでしょうか。
ママとパパ、ふざけているのかなあ?
でもそうじゃありませんでした。

パパは口を開きます。
「そうなんだよ。パパのお仕事の都合でね。急でごめんね」
パパがすまなそうに、もえちゃんを見ています。
「もえちゃん・・・分かるわよね? もう、3年生だもんね。お姉ちゃんだもんね」
ママの言葉をもえちゃんはさえぎります。

「わっ、わかんないよっ! ママになんかっ!」
じわっとなみだがあふれてきます。
「だって・・・だって・・・そうしたら、ゆうちゃんともりんちゃんとも・・・お別れ・・・っそんなの・・・いやだぁ・・・っ」


もえちゃんは泣きながら、自分の部屋に走っていきました。
ゆうちゃんとりんちゃんは、もえちゃんの大事なおともだちなんです。

いつだって3人は一緒に遊んでいました。お絵かきだって、ボール投げだって、ゲームだって。
お互いのおうちにあそびにも行ってます。これからもずぅっといっしょだって思っていたのに。
パパもママも、あたしのことなんかちっとも分かってくれてないんだあっ。
わああんっ。
(つづく)

 

第1話 びっくりニュース

そのびっくりニュースは、夜ごはんの時間にいきなりママが言ったんです。
今日のごはんはもえちゃんの大好きなからあげです。
うきうきしてはしをのばします。

「もえちゃん。ちょっとお話があるんだけど」
ん? なんだろう?
からあげをぱっくんと大きな口を開けてほおばっていたもえちゃんは、キョトンとしました。
どうしたんでしょうか。パパとママは顔を見合わせて、気まずそうにしています。
なかなか話してくれません。

「ママあ。どぉしたのぉ?」
「ええとね・・・もえちゃん」

こほん。ママはそこで一つ、せきをしました。
「食べながら聞いてくれるかな? 実はね・・・来月、わが家はお引っこしすることになったの」「え・・・」

文字通り、もえちゃんの目はまんまるになりました。
「お引っこし?」
(つづく)

自分ががんばることで、がんばれる人がいる

その日の夜。ソラは勇気を出して、
「ボク! チアリーダーになる!」
とパパとママに宣言しました。
「おおそっか」
「あらそう」
パパとママはソラがひょうしぬけするほど、あっけらんかんとしています。ソラは心配になって、もう一度大きな声で言いました。

「ボク、チアリーダーになる!!」
「まだ、なってないじゃん!」
お兄ちゃんが横からツッコミます。パパもママも大笑いです。
「あ、そうだった。えっとボク、オーディション受けます! ・・・なれるかどうかわからないけど」
ソラははにかんだ顔をうかべました。

「あら、なれるんじゃない? だって毎日がんばって練習してるんだもの。大じょうぶよ」
ママにはとっくにバレていたようです。
「やりたい気持ちの箱、ソラが自分であけたんだね?」
パパが確かめるように聞きました。ソラは、チャールズのことを思い出していました。「とりあえずイエス」は、ソラが決めたことになるのでしょうか。

「ソラッ!」
お兄ちゃんが胸をポンポンとたたきました。ソラはゴクリとつばを飲みこむと、
「う、うん! ボクが決めました!」
ときっぱりとパパの目を見て答えました。
「じゃぁ、大じょうぶだ! あとは自分を信じて、自分を応えんしなさい。ソラがソラの最強の応えん団になりなさい」
「ボクが・・・ボクの応えん団?」
「そうだよ。ソラは他の人を応えんしたいって、言ってただろう? だったら自分のことを応えんしなきゃ」
「他の人を応えんしたいのに、なんで自分を応えんするの?」
「ソラががんばることが、みんなを応えんすることになるからだよ」
ソラのひとみは、いつになく力がみなぎっていました。
「わかった。ボク、最後までがんばる! ボクを応えんする!」
絶対に最後まであきらめない。ソラは心にちかいました。

やりたい気もちの箱をあけてみよう

その晩は家でも「チアリーダー」の話題でもちきりでした。
「スタジアムで見たようなチアリーダーにソラもなれるぞ〜!」
「ソラ、チアリーダーになりたいって、言ってたものね〜。良かったわね!」
パパもママもソラがオーディションを受けると決めつけているようです。

「トータッチできないとダメだもん」
ソラは乱暴に答えると、テレビをつけました。
「あらぁ、トータッチってなぁに?」
とあっけらかんと聞くママ。ソラは答えたくなかったので、わざとテレビのボリュームを大きくしました。

「こういうヤツだろ?」
お兄ちゃんがぶかっこうに前後に足を開いてジャンプしました。
「それって『きんちゃんジャンプ』じゃないの?」
「ママはずいぶんとなつかしいこと言うなぁ」
ママもパパもお兄ちゃんもお腹をかかえて笑っています。ソラは自分の部屋に、にげたくなりました。でも、それもこどもっぽい気がして、必死でがまんしました。

「ふ〜む。トライアウトまで1か月もあるのになぁ。もったいないなぁ。自分でできないって決めちゃって」
パパはチラリとソラを見て、ぼそっとつぶやきました。
「それ、ボクのこと?! ボクができないって決めてるってどういうこと?」
ソラは自分でもなぜ、そんなにむきになったのかわからないくらい、ものすごいけんまくでパパにつめよりました。

「ソラはやりたくないのかな?」
パパは落ち着きのある低い声で、ソラに聞きました。
「だって・・・だって、ボク・・・」
ソラはパパをジッと見つめました。

「やりたい気持ちの箱は、ソラにしかあけられないんだぞ」
「やりたい気持ちの箱?」
「ああ、そうだよ。やりたい気持ちの箱は、自分であけるものだ。自分で限界を決めなければ、可能性は無限大にひろがっていくぞ」