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第二話 ほんとの恋

恋人の瑠衣が「女友だちと川越に遊びに行った💛川越サイコー💛」と、奏多にメールをよこした。
添付写真には、半世紀前もきっと同じ風景だったんだろうな、と思える郷愁を誘う街並みが写っていた。
翌日、
「これ、お土産!」
瑠衣が奏多に差し出したのは、鯛のおもちゃだった。

「なにこれ?」
奏多がそっけなく言うと、
「おみくじなのよ。縁結びの神様がいる神社。そこの有名なおみくじ!」
正月でさえ、そんなものを引いた覚えのない奏多だが、てのひらに乗っけられた『鯛』には、興味を持った。
赤い小さな鯛の、尾の部分から、確かにおみくじが飛び出している。

「ね、可愛いでしょ? 境内に釣り竿があってね、それで釣り上げた『魚』を連れて帰るの。さぁ、おみくじ、開けてみて」
奏多がおみくじを尾から引っ張り出すと、「大吉」だった。
「おっし! いい予感がしてきたぞー」

このおみくじのアイディアを、自分の商売に活かせないだろうか? と、奏多は考えていた。
奏多の店は、公園の片隅にある小さな『たいやき屋』。
週末は、家族連れのお客でそこそこ繁盛するが、「もう一発、当てたい!」と、つねづね思っていたんだ。
「瑠衣、おみくじ入りのたいやきって、どうかな?」
「いいね。女子にウケそう」

2020年3月30日(火)~4月25日(土)まで埼玉県川越市のギャラリーウシンにて「BOOK&」展を開催しました。

緊急事態宣言が出された中での展覧会。
ギャラリーオーナーさんが、入り口に消毒液の設置、入店予約、人数制限、お客様と2メートル離れた会話など細心の注意を払って、開催を続けることができました。

ギャラリーのある川越をテーマに、本や銅版画、蔵書票・栞などの作品で、小江戸・川越の魅力を表現しました。
新型コロナウイルスに罹患するかもという不安の中、ご来場くださった皆様、ありがとうございました。
BOOK展では、「新作の嵐」でご一緒しているイラストレーター・小野寺美樹さんが装丁・挿絵を担当した本『最高の贈り物』(私家版)の展示もありました。
(作者は立木アンジェリカさん)
私は、絵本『うわさのしゃしんかん』(イベント用として制作されたミニ絵本)を展示しました。(絵は、安藤麻咲子さん)

 

 

 

 

 

その他に、「川越」を舞台にした作品を、三つ作りました。
まず第一話をご一読いただければ幸いです。

エンジェルの仕事

スィート王国では、果物と言えば、チョコレート・コーティングしてあるのが常識でした。
宮殿に住むエンジェルたちが、毎日せっせと励む、チョコ・フォンデュ作り。
「今日は、苺だよ」
「チョコレートの海に、たっぷり、ひたして、ひたして」
「はい、できあがり!」

リズミカルに仕上がっていく、この国の果物。エンジェルたちが、ありったけの愛をこめて作るのですから、美味しいに決まっています。
「あっ、きみきみ。そりゃ、つけすぎだろう?」
見習いのエンジェルが、チョコレートの加減で、先輩に注意されていますよ。

「よし! いい調子だ」
エンジェルたちは、おひさまがすっかり沈むまで、休むことはありません。
夜が来て、やっと、明日の市場に届ける果物の準備ができました。

お菓子の家

名の知れた和菓子屋に生まれた一人息子だから、ケイトは店を継ぐことを期待されて育った。思春期の激しい反発を経て、それなりの製菓学校へ進んだ頃には、和菓子への愛も少しは芽生えていた。

物心つかないうちに母をなくしたケイトは、折に触れ、母を知る従業員たちから、
「あなたのお母様は、本当に和菓子がお好きでしたね」
と、聞かされ、顔も知らない母を喜ばせたい気持ちも、どこかにあったのかもしれない。

粉を練る技、形を造るセンス、商品化する能力まで持ち合わせていたケイトは、ネオ和菓子と呼ばれる、宝石のようなお菓子を生み出して、店をさらに発展させた。
何もかも順調に進んだ。父が引退して、ケイトが社長になり、働き者の妻を迎え、娘と息子が生まれた。

40歳を目前にした朝、新しい和菓子の材料を調達するため、ケイトは自ら車を飛ばして、里山を目指した。そこの畑で採れる豆が、どうしても欲しかった。

エピローグ

策作じいさんは、帰ってこなかった。
帰ってきたのは、賢作さんだった。
なにが、どうなってるんだ?
さっぱりと、わからない。

でも、もしかしたら、
「あの、迷っ、ちゃい、ました?」
「迷う?」
「か、帰る途中、道に、迷って、わ、からなくなって、・・・うろうろ、しているうちに、元の所に戻、ってきて、しまった?」
「昨日の安達ケ原さんみたいに?」
「そう、昨日の、って知、ってた、んですか?」
「それより、どうしたの?」
賢作さんの手が、あたしの、頬にふれる。
あたしも、自分で、ふれてみる。
もう、どこまで、恰好悪いんだ・・・、またまた、涙、流してるのか?

14 彼方へ

まだ日が落ちない海辺に、送り火がゆれる。
お精霊舟を待つお曳舟の先端を波がぬらす。
『魂送り』が始まる時刻が、近づいている。

『魂送り』は、お盆にこちらに帰ってきた霊たちを、彼の岸に送る風習だ。
カヤや竹で編んだお精霊舟に、先祖の霊や、身内の霊を乗せ、沖まで小舟で
曳いていく。
小舟は、お曳舟といい、乗れるのは、新盆を迎えた家の人たちだけだ。

13 チョウコの涙

いつの間にか、朝になっていた。
ずっと一緒にいたいと捜したが、賢作さんの姿はなかった。
しのさんの姿も、見えなかった。
他の方々も、あたしには、見えない。
見えるのは、別に見たいとも思わない策作じいさんだけだ。

「おはようございます」
「キツツキ、今日は、海や。昨日、川で見つけたやつは、大きすぎて、お精霊舟に積めんさかい」
「あの・・・、今日は、『魂送り』の日です」
「そうやな」
「あの・・・、送る準備とか、心の準備とか、・・・いろいろな覚悟とか、しなくてもいいんですか?」

「アホか、キツツキは、あっ、あかん、ゆうてしもた」
「ぷふっ、大丈夫ですから、そんなに焦らなくても。もう、泣きませんから」
「そうか。ほんなら、ええけど」
「はい」
「あのな、キツツキ」
「はい」
「他の時はしらんけど、だれかを見送ったり、別れたりする時はな、」
「はい」
「心の準備とか、覚悟とかはな、するだけ無駄やで」
「はい?」
「準備なんぞしといても、覚悟なんぞしといても、いざという時、さみしいもんはさみしいし、悲しいもんは悲しいんやから」
「・・・・・・」

12 流星群

月が去った紺色の空に、星々が輝いている。
あれは、あの星座は、これは、この星座は、なんだったっけ?
思い出せないけれど、ながめていると、いろんな想いが、あふれてきそうだ。
しみじみとした、いい夜だ。
けど、さみしい夜だ。
そして、
「ここは、どこだ?」
なんて、考えても、はじまらない。
昼でさえ方向感覚危ういあたし、まして、いわんや、夜である。
だいたい、「ごゆっくり」なんて、恰好つけるから、こういうことになる。

「そうだ、戻ろう」
あの神社へ、あの盆踊りの会場へ戻り、策作じいさんとしのさんを待ち、一緒に帰ることにしよう。
そう思いつき、耳を澄ます。
だが、なにも、聞こえない。
いやいやいやいや、聞こえるぞ。
でも、あのメロディーじゃない。
気の早い、秋の虫かな、あれは。

11 神社にて

玄関から門まで一気に駆け抜けて、通りに出てみる。
が、どこを、どう捜せばいいのだろ?
なんて考えてもわかるはずがない。
こんな時には、野生の勘だ!
適当に、うろうろしよう。と、歩きはじめてみると、犬も歩けば棒に当たる?
風に乗って聞こえてくるのは、祭囃子か?

耳を澄まして、方向を確定し、音をたどる。
何回か角を曲がり、路地をいくつか突っ切った。
「あそこからだ!」
向こうに、ぼんやり、明かりが見える。
「神社か・・・」
鳥居のような影も、見える。
そこを目指して、進む。
足を速め、やっと鳥居までたどり着く。
いつの間にか、祭囃子は止み、あたりは、しんと静まっている。

10 第二夜

遠い道のり、歩いてきたから、疲れているはずなのに、眠れない。
シャワーを浴びて、スイカを食べて、豆大福もひとついただき、ふとんを敷いた。
時計が、ボーンと時刻を告げる。
ボーン、ボーンと八つ鳴る。
「さあ、早く寝なくっちゃ」
って、いやいやいやいや、まだ8時だよ、子どもじゃ、あるまいし。
記憶にあるのは、自分にそう突っ込みを入れたところまで。
その後、ぱたんと眠りに落ちた。
どうもそういうことらしい。

そして、目覚めると、
ボーン、ボーン、・・・ボーン
時計が、10個、時を打った。
「お腹、へった」
スイカと豆大福だけじゃ、あたしのお腹は、朝までもたないらしい。
策作じいさんを起こさないように、忍び足で台所へ。
台所は、闇に包まれている。
電気は、電気のスイッチはどこだ?
と、目を凝らした時だった。

なんだ?
闇の中、動く光は、懐中電灯のようだ。
焦るな来月、これは、どういう状況だ?
泥棒? 強盗? 痴漢? 変態?

いやいやいやいや、焦るな、来月。
もしかしたら、賢作さんかもしれないし。
って、いやいや、それは、ありえない!
停電の時ならいざしらず、自分の家で、懐中電灯、使わないだろ?
それに、あたしの使わせてもらってる客間には、ちゃんと電気は点ってる。よって、停電でないことは明らかだ。

ならば、あの、怪しい影は、泥棒!
泥棒ならば、強盗に変身することだってあるはずだから、いや、ドラマの世界では、お決まりの設定だ、だから、だから、下手な手出しはしてはいけない、110番だ! と、頭では、わかっているのに、この口が、勝手に叫ぶ。

「手を上げろ! そして、武器は捨てなさい!」
「その声は、安達ケ原さん?」
というその声は、佐熊山賢作さん!
「台所の電気が切れちゃって。この懐中電灯、持っててくれる?」
「はい・・・」
あたしは、あたしは、あたしは、アホだ。